2014 Fiscal Year Research-status Report
リン摂取過剰において運動が骨代謝およびリン・カルシウム代謝に及ぼす影響
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26350916
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
梅村 義久 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (00193946)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 骨代謝 / 高リン摂取 / 運動処方 / FGF23 / 骨強度 / 骨塩量 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代の食生活においては食品添加物などの影響で、一日のリン摂取量が増加していると考えられる。これに対してカルシウムの摂取量は昔からほとんど変化していないため、摂取するリン/カルシウム(P/Ca)比が増加している。本研究の目的はこのようなリン摂取過剰の栄養摂取状態において、運動が骨代謝およびリン・カルシウム代謝に与える影響を検討することである。 実験には9週齢のウィスター系雄ラット42匹を用いて、デキストリンやリン酸ナトリウム等で調整したP/Ca比が1.0である通常食と2.0である高リン食摂取群を設け、さらにそれぞれに8週間のジャンプトレーニングをさせる群とコントロール群を設けた。その結果、ジャンプトレーニングは高リン食摂取状態においても脛骨の骨塩量および骨幹部の骨強度、短径、長径を増加させることが明らかとなった。骨幹部の短径と骨強度試験における骨強度とエネルギーにおいては、通常食よりも高リン食においてよりジャンプトレーニングの効果が顕著であった。血清のデータからは高リン食によって血清無機リン、FGF23、活性型ビタミンD濃度が上昇し、ジャンプトレーニングによって血清総カルシウムと活性型ビタミンDが上昇することが明らかとなった。 本年度の研究結果としては、上記の高リン食摂取状態においても運動によって骨にメカニカルストレスを与えることは、骨量・骨強度の増大に効果的であることが明らかとなった。また、メカニカルストレスが骨に与える影響は局所的であることが知られているが、活性型ビタミンDの血清濃度が高値を示したことから、全身性のカルシウム・リン代謝にも影響が現われることが示された。一方、高リン食は血清の無機リン濃度を高め、このためFGF23や活性型ビタミンDを上昇させたと考えられ、やはり全身性のリン・カルシウム代謝に大きな影響を与えていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の統合的な研究目的は高リン摂取および運動が骨代謝およびリン・カルシウム代謝に及ぼす影響を検討することであるが、平成26年度の研究においては統合的な目的について概略的な結果を把握するために実験が計画された。 高リン食の食餌条件については、カルシウム含有量を一定にしてリン含有量を変化させ、リン/カルシウム比が1.0となる通常食と同比が2.0となる高リン食を試みた。当初の実験計画では同比が3.0である高リン食についても設定することも想定したが、参考文献から3.0では骨成長が抑制され骨の評価が複雑になる可能性が考えられたため本年度の実験には加えなかった。実験の結果、リン/カルシウム比が2.0の高リン食では骨成長が抑制されることはない範囲でのリン負荷であることが明らかとなり、本研究の目的に沿った条件設定であることが確認されたので、まずこの点において本研究は順調に進展していると判断される。 運動条件である8週間、週5回、1日20回のジャンプトレーニングについては、私の先行研究によって骨塩量増加に有効なトレーニング法であることが明らかとされており、本研究においてもこれを採用することで運動の骨に対する影響を評価することが可能であることが確認された。 これらの条件設定において実験を行った結果、高リン食ならびに運動は骨代謝ならびに全身性のリン・カルシウム代謝に影響を及ぼしていることが多くのデータより明らかとなった。今後の研究において、実験条件の設定を変化させて高リン食および運動の影響を検討するために、本年度の実験結果は基礎的なデータとすることができると考えられる。したがって、総じて本研究は順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度、平成28年度においては、平成26年度と異なる条件設定においてラットを用いるトレーニング実験を行い、本研究の目的である高リン摂取および運動が骨代謝およびリン・カルシウム代謝に及ぼす影響を多角的に検討する方針である。 平成27年度においては実験計画を一部変更して、平成26年の実験からトレーニング条件のみを変化させてその影響を検討する予定である。平成26年度の実験においてはトレーニング期間を8週間に設定したが、骨のメカニカルストレスへの適応はトレーニング初期の段階から始まっており、よりダイナミックな変動が観察される可能性がある。そこで平成27年度においてはトレーニング期間を2週間として、高リン食摂取条件における運動の影響を、骨塩量、骨強度、骨代謝マーカー、カルシウム・リン関連因子などから分析する予定である。 平成28年度においてはトレーニング条件を変化させて高リン食において骨塩量を増加・維持するために必要な運動の要件について検討する。私の先行研究によると、通常食の場合、メカニカルストレスを骨に与えるジャンプトレーニングは、1日5回という少ない回数でも下肢の骨塩量を増加させる刺激となることが明らかとなっている。高リン食においては全身性のリン・カルシウム代謝が変化しているため、骨塩量を増加させるための運動条件が異なることが考えられる。平成28年度の実験結果とともに、3年間の研究結果を統括して、リン摂取が増加傾向にある現代の食生活において、運動が骨代謝やリン・カルシウム代謝にどのような影響を及ぼしているのかについて検討を行う。
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Causes of Carryover |
血液検査を外部検査機関に外注してその費用を「その他」の費目で支出したが、研究計画を再検討し当初の予定より依頼する検査項目を減らしたため、若干の余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の使用計画としては「物品費」について予定額に繰越金を追加して、約82万2千円を見込んでいる。増額した分については化学実験の実験消耗品の購入にあて、より効率的に精度の高い分析を目指す。そのほか、「人件費・謝金」の費目には当初の計画通り30万円、「その他」の費目には10万円を計画している。
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