2015 Fiscal Year Research-status Report
子どもの意思決定能力を育成するための支援ツールの開発
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26350954
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Research Institution | Tokai Gakuin University |
Principal Investigator |
川嶋 健太郎 東海学院大学, 人間関係学部, 教授 (80360204)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
蓮見 元子 川村学園女子大学, 文学部, 教授 (60156304)
北原 靖子 川村学園女子大学, 文学部, 教授 (60221917)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 意思決定支援 / 母子相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度は大学生の選択肢提供についての実験,保育者・保護者への意思決定支援に関するインタビュー,保育園での意思決定支援に関する実験的観察,体験活動場面での大人と子供の意思決定に関するかかわりについて研究を行った。選択肢提供実験では,提供する被験者の行動が実験プログラムが「選択」をするまでの時間によって影響を受けていることを示す結果となった。保育者および保護者のインタビューでは子どもの意思決定場面でどのように支援を行っているか,またその時の思いはいかなるものかを尋ねた。この結果,保育者は子どもの好みを把握し,子どもが選択できるまで待ち,ときに適切な選択をするように誘導する支援を行っていることが示された。 保育園での実験的観察では,何かを選択するという場面でこどもの意思決定がどのような要因(他者からの働きかけの影響及び子ども自身の実行機能)に基づいて行われるのかを明らかにした。その結果、幼児の意思決定は、他者からの影響はそれほど大きくなく、子ども自身の実行機能という内的要因の影響を受けていた。すなわち、意思決定の容易さと実行機能の「柔軟」(新しい事態に対する適応のとよさ)との関連が認められた。 最後に体験活動に参加する児童の意思決定と大人との関わりについて検討した。放課後子供教室において体験活動を主宰するサポーター対象のインタビュー調査および参加児童の意思決定エピソード分析からは、自律性が育ちはじめる児童期では大人から提供された選択肢や助けを回避したり、場当たり的な意思決定を行ったりしがちなことが明らかになった。そのようなとき、大人は関わり方に悩みながらも、子どもの選択が適切な範囲内に収まるよう、やりとりを模索して工夫を重ねていた。また具体的な対応は多様だが、大人側の考えを「届けること」と子どもの思いを「受け止めること」の2姿勢をバランスよく維持することが意識されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各分担において研究は進行している。意思決定支援についての保護者・保育者への面接についてはデータ収集を終え,質的研究法の一種であるM-GTAを用いた分析を行い,一部を学会にて発表予定である。大学生を対象とした選択肢提供行動についての心理学的実験については選択肢提供行動に強い影響を与える要因と考えた「選択時間」の効果を検討し,学会にて発表を行った。基本的実験手法が整えられたため,選択肢提供行動に影響する他の要因について検討することが可能になった。 意思決定支援尺度作成については,実験的観察研究と項目選定のための保護者へのインタビューの結果から子どもの意思決定がどのような日常生活場面で起こり、意思決定支援を大人はどのように行っているのかを検討し,次年度に行う予定の意思決定尺度作成のための予備資料を作成した。実際の調査の実施は最終年度に持ち越された。 意思決定支援アプリ作成については支援ツールの方向性を、重要な育成環境である「大人自身」が意思決定を巡る子どもとのやりとりを意識し、モニターして、ふりかえりできるアプリケーション開発に定めた。意思決定を巡るやりとりは大きなトラブルが生じた出来事ほど長く複雑に連鎖しており、普段意識していない者がそれだけ取り上げても扱いかねると考えられる。それよりは、日々の比較的単純なやりとりについて肯定的ふりかえりを重ねてゆくことが役立つであろう。そこで今回は「食事」に場面を絞って協議を重ね、場面と入力データの選定、ふりかえりに利用する情報提供の内容、画面進行などを定め、専門業者にアプリ作成を打診中である。現在は発達支援職に従事する育児中の母1名にモニターを依頼し、PCの統計ソフト上でアプリと同等のモニタリングしてもらいながら、細部の調整を行っている。以上のように、ツール開発に向けては順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
意思決定支援についての保護者・保育者への面接については,保育者の面接結果について質的分析がほぼ終わったため,論文投稿の準備を進めていく。 自由遊び場面での行動観察については,これまでの観察結果を踏まえて,子どものワーキングメモリの実行機能の発達の違いにより保護者による言葉がけ等にどのような違いがあるか検討する。 大学生を対象とした選択肢提供行動についての実験については,選択肢提供後の選択の拒否の有無が提供行動に与える影響について,拒否の頻度・拒否される選択肢の範囲を調整しながら検討していく。 意思決定支援尺度については現在、質問項目選定のための予備調査や観察研究の結果から、質問項目を選定する作業を行っているところである。子どもの選択機会と大人の支援行動に関する保護者・保育者を対象とした「子どもの意思決定支援尺度」の作成は28年度に本調査を行い、その結果を分析し、尺度として完成させる予定である。 意思決定支援アプリ作成についてはアプリ試作版が完成した段階で、調査協力者を募る。本アプリの適用可能性を検討するために、育児中の父母(幼児や小学生)・相手の食事あるいは日常の意思決定についてなんらかの問題を感じている大人(学童保育室スタッフ・老人ホーム介助員・特別支援教育支援員)・関わり方の支援について学習を深めたい者(放課後子ども教室ボランティア)など、育児関係者だけでなく多様な層を候補とする。事前個別面接を行って、趣旨と利用法をよく理解し協力に承諾した者にアプリを貸与し、実際に3か月程度使用してもらいながら、定期的に使い勝手について報告を求める。また事前・事後には養育ストレス尺度・自己効力感尺度などに回答してもらい、使用による心理的健康の維持向上が保証されるか調査する。これらを通して、アプリの支援ツールとしての有用性について検討を行うものとする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は主に二つある。一つは今年度計画していた意思決定支援アプリの予備調査および意思決定支援尺度を用いた調査を調査委託が行えなかったためである。第2に意思決定支援アプリの作成には業者への制作委託を行う予定であるが,その費用が当初の予定よりも高額になることから,今年度の残額と合わせて事前度の予算で委託することを計画したからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度の主な使用計画は以下のとおりである。意思決定支援アプリの制作とモニタリング依頼を実施するため,アプリケーション作成費用としておよそ700,000円程度,調査協力への謝金に50,000円を計画している。また意思決定支援尺度を用いたWEB調査費用として,450,000円程度を計画している。このほか自由遊び場面での行動観察および大学生に対する選択肢提供実験においても謝金の支払いを計画している。
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Research Products
(8 results)