2015 Fiscal Year Research-status Report
複数遺伝子の同時・並列転写制御によるヒト細胞内での遺伝子発現ネットワークの構築
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26350964
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
遠藤 玉樹 甲南大学, 先端生命工学研究所, 講師 (90550236)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 遺伝子発現制御 / 転写反応 / RNA / 構造変化 / リボスイッチ / ラショナルデザイン / 翻訳反応 / 四重鎖構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、インプットシグナルとなる特定の化合物に応答したRNAの構造変化に基づき、複数遺伝子の発現を制御できるシステムを構築することを目的としている。 初年度において、ネオマイシンを標的としたRNAのセレクションにより、ネオマイシンに応答して転写活性化因子であるTat由来のペプチド(Tatペプチド)との結合親和性が向上するRNAが得られている。当該研究年度では、得られたRNA配列が示す構造変化の前後における熱安定性の変化を考慮することで、ネオマイシン以外の化合物に応答してTatペプチドとの結合親和性を向上させるRNAの配列設計に成功した(Anal. Chem., 87, 7628 (2015))。この研究成果は、既存の分子認識RNA(アプタマー)を利用することで、様々な化合物を対象に、構造変化を示すRNAの配列を合理的に設計できることを示しており、細胞内での遺伝子発現制御や特定の化合物のセンサーに活用可能であると考えられる。 当該研究年度では、新生RNAの構造変化を利用した翻訳制御システムについてもその可能性を検討した。四重鎖構造を形成し得るRNA配列の前後に、安定な二次構造を形成する配列を挿入し、転写反応の途中で四重鎖構造が形成されるか否かを検討した。その結果、四重鎖構造を形成するRNAの5’側に二次構造の形成配列が存在していた場合、転写反応中の四重鎖構造の形成が抑制されることが示された(Anal. Chem., 88, 1984 (2016))。研究代表者らは、RNAの四重鎖構造が翻訳反応を抑制することを既に示している。そのため、四重鎖構造を形成するRNAの5’側にアプタマーの配列を導入することで、標的化合物に応答した翻訳反応の制御システムを構築できる可能性が考えられる。当該研究年度では、四重鎖構造を形成する配列をmRNA中のどの位置に導入すれば、効率良く翻訳反応を抑制できるのかについての知見も得た(Sci. Rep., 6, 22719 (2016))。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、転写反応の制御を中心とした遺伝子発現の制御システムを構築することを主目的としている。これまでの研究の遂行により、様々な化合物(ネオマイシン、アデニン、S-アデノシルメチオニン、チアミンピロリン酸など)に応答し、転写活性化因子であるTat由来のペプチド(Tatペプチド)との親和性を変化させるRNAの合理的な設計に成功した。当該研究年度における研究成果は、平成26年度での研究の進捗状況を受けて設定した【今後の研究の推進方策】に沿った研究成果である。一方で、合理的に設計したRNA配列を用いて、特定の化合物による細胞内での遺伝子発現制御を試みたところ、RNAの構造変化特性を反映して遺伝子の発現量変化が起こるものの、当初想定していたほどの大きな変化が現れないことも見出されつつある。そこで当該研究年度では、転写反応に引き続く翻訳反応段階にも制御点を設け、転写と翻訳の2段階の発現制御を組み込むことで、OFF状態とON状態での遺伝子発現量の差が大きなシステムを構築するための検討を始めた。翻訳反応を抑制するRNA四重鎖構造を形成する配列の近傍に、安定な二次構造を形成するRNA配列を導入することで、四重鎖構造の形成が抑制されることを示すことができた。また、翻訳反応を効率良く抑制するための四重鎖構造の最適な導入位置についても知見を得た。これらの研究成果は、当初の研究計画にはなかったものであるが、特定の標的化合物とRNAアプタマーとの結合によるRNA構造の安定化を利用した、新たな遺伝子発現制御システムへの応用展開が期待される成果である。以上の研究成果により、当該研究課題は、研究目的の達成に向けておおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
転写反応の制御システムの構築に関しては、合理的に設計した、標的化合物に応答してTatペプチドとの相互作用を示すRNA配列について、細胞内の生合成反応過程を模倣した実験系を構築して詳細な解析を行う。一定温度の条件下でRNAを転写し、転写反応途中でのTatペプチドとの相互作用が、特定の標的化合物に応答して変化し得るか否かを検討する。これにより、細胞内での遺伝子発現制御システムとして利用した際の応答性の低さの原因を追究すると共に、応答性を改善するためのRNAの配列改変が可能であるかどうかを検討する。 翻訳反応の制御システムの構築として、四重鎖構造を形成するRNA配列の5’側に特定の標的化合物を認識するRNAアプタマーを挿入した配列を合理的に設計し、標的化合物でRNA四重鎖構造の形成を制御する。また、レポーター遺伝子を用いて、標的化合物に応じた細胞内での遺伝子発現量の変化が起こるか否かの検討を行う。 これらの検討課題を推進し、良好な変化を示す配列を組合せることで、タンパク質の発現量変化が大きな遺伝子発現制御システムの構築を目指す。また、複数の標的化合物を用いた遺伝子発現の同時かつ並列的な制御(遺伝子発現ネットワークの構築)について検討する。
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも研究成果の論文掲載が遅くなったため、掲載費用として想定していた経費に余剰が生じた。一方で、翻訳反応の段階に新たな遺伝子発現の制御点を設ける新規課題を設定して研究を推進したため、必要となる物品費に余剰の研究経費をあて、最終的に若干の未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
年度末に論文掲載が確定したため、次年度早々に論文掲載費として研究費を使用する予定である。
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Research Products
(8 results)