2014 Fiscal Year Research-status Report
大脳皮質-大脳基底核投射から見た基底核神経回路の機能的並列性
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26350983
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
苅部 冬紀 同志社大学, 高等研究教育機構, 准教授 (60312279)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 晋 同志社大学, 高等研究教育機構, 准教授 (20510960)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 大脳皮質 / 運動野 / 線条体 / 淡蒼球外節 / 視床下核 / Calbindin / 大脳基底核 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の研究目的は、視床下核に投射すると考えられている複数の大脳皮質領野からの情報と、大脳基底核からの情報がどのように統合されるかを細胞レベルで明らかにし、大脳皮質‐基底核回路の機能的並列性と情報の収束・分散について明らかにすることである。このためには、まず、マクロなレベルで皮質‐基底核投射の様式と基底核間投射の様式を、両者を関連付けながら詳細に理解することが必要である。そこで、本年度はまず形態的な実験を集中して行い、大脳皮質の運動関連領野と、より高次な脳機能に関わる前眼窩皮質から大脳基底核への投射について詳細に観察をした。これにより、前眼窩皮質と運動領野は線条体と大脳基底核の異なる部位を好んで投射すること、また、一次運動野と二次運動野の間でも明瞭な差異があることを見出した。同時に、異なる皮質領野からの投射領域はある程度の重なりを持っており、さらに線条体と視床下核の神経細胞の樹状突起領域の大きさを考えると、単一の基底核細胞の中で複数の皮質領野からの情報が統合されることが示唆され、今後の電気生理学的実験の基盤を得ることが出来た。他方、齧歯類における一次・二次運動野が霊長類のそれらと相同のものかどうかについては未だによく分かっておらず、本実験の結果はこれに対する重要な手掛かりともなると考える。 次に、電気生理学実験のために、アデノ随伴ウイルスベクタを用いて蛍光タンパク遺伝子とチャネルロドプシン遺伝子を投射系選択的に導入する手法を取り入れた。スライス標本において視床下核神経細胞から皮質軸索由来のシナプス電位を計測し、異なる皮質領野からの基底核系への入力様式とその薬理学的性質についてパイロット実験を行い、今後の実験手法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時は平成26年度に(1)神経トレーサーによる形態的解析と(2)スライス標本を用いた皮質‐視床下核終末の光刺激法による電気生理学的解析の二項目を予定しており、(2)については次年度以降も継続して行うことを計画していた。以下に、当初計画と現在の達成項目について記述する。 (1)当初予定していた古典的神経トレーサーに加え、アデノ随伴ウイルスベクタを用いた手法を新たに導入し、さらに詳細な検討を行うことが出来た。現在までに、皮質‐視床下核投射と皮質‐線条体投射の解析をほぼ終了し、淡蒼球外節‐視床下核投射および線条体‐淡蒼球外節投射についても、皮質投射と関連して形態学的解析を行った。これにより、異なる皮質領野から基底核への投射領域の違いと、基底核間の投射領域の選択性とに関連があることが強く示唆された。次年度以降に予定している単一細胞レベルでの形態的および電気生理学的実験へ効率よくつなげられると考えており、ほぼ予定通りの達成度と自己評価した。 (2) 当初の予定通り光刺激システムを立ち上げ、皮質軸索由来の興奮性シナプス電流の記録を基底核において記録した。また、当初計画に加え、ドーパミンを中心とした神経関連物質の影響を観察するために薬理実験のシステムを導入し、一部実験を開始した。さらに、単一細胞・シナプスレベルの形態観察と免疫組織化学法によるその性質の観察を目的として共焦点顕微鏡システムによる高解像度での解析も開始した。当初より、(2)については年度をまたいだ実験を予定しており、ほぼ計画通りに進捗したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に形態的手法によって皮質‐基底核回路のマクロな投射特性を解明できたので、それに基づき、光遺伝学による特異的投射経路の標識および刺激と電気生理学を用いた実験に加え、高解像度の共焦点顕微鏡観察と蛍光免疫組織化学を並行し、皮質‐基底核シナプスの特性を解析する。これにより、複数の皮質領野から基底核への経路が、投射領域の違いのみで制御されるのか、あるいは、領野ごとに異なるシナプス特性や興奮・抑制バランス、神経修飾物質による制御を受けて機能的に特化するのかを明らかにすることを目的とする。基底核の対象は主として視床下核を考えているが、線条体も考慮に入れる。 (1)基底核回路は幅広い範囲の周波数で振動しており、特に20-50へルツ前後のβ振動がパーキンソン病と強い関係があると言われている。そこで各皮質領野からのシナプス伝達の周波数特性を明らかにしたい。また、深部脳刺激を模倣した刺激を行った際に、シナプス伝達にどのような影響が出ているかを調べることにより、パーキンソン病治療の副作用に関する知見を得ることを試みる。 (2)各皮質領野からの投射系について、電気生理学と共焦点顕微鏡により、受容体や神経修飾物質の構成とその作用を明らかにしたい。 (3)現在、光波長特性やチャネル特性について多様なチャネルロドプシンが開発されているので、これらを組み合わせて、複数の皮質からの興奮性入力と各基底核からの抑制性入力が、単一視床下核細胞にどのように収束しているかを明らかにすることで、一次・二次運動野の基底核回路への機能的差異並びに、より高次の皮質領野との差異を観察する。
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Causes of Carryover |
備品費として計上していた当初予定機器について、償却機器の譲渡を受け、購入しなかったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験計画の拡張に伴い、遺伝子改変動物やウイルスベクタなどの購入計画とそれに伴う消耗品費用が見込まれるため、それに充てる予定である。
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