2014 Fiscal Year Research-status Report
ペンテコステ派とパール行商ーサマが経験する21世紀の仕事と祈り
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26360001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青山 和佳 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (90334218)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 東南アジア / サマ人 / 経済 / 宗教 / 生活 / 都市 / キリスト教 / ペンテコステ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績としては、次年度以降、フィールドワークを実施するための準備として、つぎの三点があげられる。第一点は、米国留学中(平成26年8月末迄)の期間中に、ボストン大学CURA所長のRobert Hefner教授をメンターに得て収集したジャーナル論文も含め、アジアの宗教と経済に関する人類学および社会学の文献を収集し、その読み込みを行ったことである。帰国後、本科研予算により追加的に文献を購入した。このサーベイの成果の一部は、留学先であったHarvard-Yenching Instituteのワーキングペーパーとして発表した。第二点は、下記「現在までの達成度」に記すように、平成26年4月にフィリピン、ダバオ市の調査地を襲った火事のあと、本科研予算を使うのが妥当か事前には判断がつかなかったため、勤務先大学の個人研究費で緊急に渡航し、10日間ほど火災後のコミュニティを訪問し、状況の視察と記録をしたことである。この予備的な成果をとりまとめ、平成26年11月12日~14日にフィリピン国立博物館で開催されたフィリピン研究年次集会で報告した。また、結果的には、火災後の調査地ではキリスト教宣教団体、教会、および教会指導者(牧師など)が大きな役割を果たしていることがわかったため、次年度以降、本科研プロジェクトの枠組みにおいて追跡調査を試みる予定である。第三点は、もともと本年度もふくめて複数年のフィールドワークにより、当事者からフィードバックをえることを計画していた、複数の家族から過去に収集したライフヒストリーについて、英語への翻訳を進めたことがある。英語翻訳はさらに必要に応じて、今後、セブ語への翻訳をおこない、最終的には当事者と読み合わせを行う予定である。これはだいたい6章相当であるが、平成26年度内にそのうち3章を訳し終えた。うち1本は国内の紀要に翻訳として投稿し、現在印刷中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度は当初の計画よりやや遅れての実施となった。これは、応募時点において予測不能だったつぎの2点の出来事のためである。ひとつは、フィリピンのダバオ市の調査地で平成26年4月に火災が発生し、調査地全焼となり、すべての住民が調査地外の避難所で生活するという緊急事態に陥ったためである。もうひとつは、応募時の米国留学中に現勤務先への転職が決まり、それにともない留学期間が当初の平成26年3月末から同年8月末に延期されたことによる。転職は、北海道から東京、および米国から東京という2カ所の引っ越しを伴うものであった。これらのふたつの不測の事態から、平成26年度は無理に当初の計画の達成をはかるよりは、落ち着いて次年度以降から本格的にフィールドワークを開始したほうがよいと判断し、文献サーベイを中心としてフレームワークについての論考とフィールドワークの準備とした。このように初年度は、やや遅れての出発となったが、延期となった米国留学では、ボストン大学CURA所長のRobert Hefner教授をメンターに得て対面で指導を受けたり、ハーバード大学で人類学の授業及び公開トークにできるだけ出席して最近の民族誌のテーマやスタイルを学んだことは、結果的にはのこる3年間の本プロジェクトの実施期間をより有意義なものにすると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目にあたる本年度は、調査地全焼という現実を考慮しつつ、初年度に実施できなかった研究計画に適切な変更を加え、残り3年間の期間全体においてより効果的に研究を推進できるように、つぎの3点を行う。第一に、文献調査の継続である。キリスト教の人類学や社会学の分野においては、キリスト教入信にともなう経済活動への影響が指摘されているにも関わらず、それを実証的にサポートするデータが不足している。そのため、宗教関連以外に、家計研究に関する経済学、ジェンダー研究、開発研究などの文献を読み込む。第二に、フィールドワークである。初回は、調査対象者の現在の居住地と居住状態の把握、今後の調査内容の妥当性について短期で探る。その後、数週間程度、住み込み調査を1回ないし2回行う。1)指導者であるサマ人牧師家族のライフヒストリーと家計活動、2)コミュニティ内のキリスト教会における集団的な信仰実践、3)コミュニティの一般信者の日常生活における信仰実践について資料を収集する予定。
第三に、引き続き、過去に収集したライフヒストリーの翻訳(英語、その後にセブ語)を行う。これらのライフヒストリーは、キリスト教への改宗以前に収集されたものであるという点において、そのほかの過去に収集された一次資料(家計調査等)とあわせて、一組のベースライン・データとなっている点で貴重である。上記に記した、今後行うフィールドワークで収集する一次資料の分析および解釈をより有効に行い、現地の住民および研究者と議論していくためにも、この翻訳作業は欠かせない。平成27年度内に、のこりの3章(3家族分)の英訳を終える予定である。
最後に第四として、以上の研究活動について、予備的な報告として、国際学会で少なくとも1回、報告を行う。これは現時点では、平成27年12月に京都大学を会場として開催される東南アジア研究関連の国際研究集会で行う可能性が高い。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、旅費を使用しなかったことである。つまり、フィールドワークのためにフィリピンのダバオ市の調査地を訪れるなど、海外にでなかったということである。その理由は、本科研応募時には予測できないことであったが、平成26年4月に前職場(北大)より現職場(東大)に転職したことにより、前職場で決定していた平成26年3月末までの在外研修(Visiting Scholar, Harvard-Yenching Institute)が平成26年8月末まで延期されたためであった。これにより、申請者は平成26年8月末に米国から日本へ帰国、同年9月より実質的に新しい職場での勤務を開始した。このことは平成26年4月時点ではすでにわかっていたため、研究計画の変更はその時点でおこない、フィールドワークよりも文献収集とその読み込み等を平成26年度の活動の中心にすえた次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度は、夏期以降に2回ないし3回のフィリピンでのフィールドワークを行い、次年度使用額を使用する。初回は、7月26日から29日にInstitute of Philippine Culture (IPC, Ateneo de Manila University)を短期間訪問し、現地研究者およびその時期に開催されるIPCのサマースクールに参加する外国人のフィリピン若手研究者と交流し、本プロジェクトの研究課題や方法について意見交換する予定である。その後、1回、ないしは2回、4週間程度の住み込み調査を現地で行う。これらの海外調査により、次年度使用額を使用するとともに、平成26年度における研究計画の遅れと変更を十分にとりもどせると考えている。
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Research Products
(2 results)