2016 Fiscal Year Research-status Report
ペンテコステ派とパール行商ーサマが経験する21世紀の仕事と祈り
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26360001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青山 和佳 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (90334218)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 東南アジア / サマ人 / 経済 / 宗教 / キリスト教 / 生活 / 都市 / ペンテコステ |
Outline of Annual Research Achievements |
実施3年目となった本年度の実績は、つぎの3点にまとめられる。 第1に、現地調査を2回実施した。まず、2016年4月25日~同5月12日において、フィリピン・ダバオ市のサマ人居住区において「聖週間」および大統領選挙の参与観察を行うとともに、いくつかの政府機関に情報開示を要請した。つづいて、11月16日~同20日に再訪し、前回調査のフォローアップとともに要請していた情報開示の結果を回収した。あわせて、マクロ経済指標の収集に関して、Ateneo de Manila UniversityのJoint Aeteno Institue of Mindanao Economicsの所長Dr. Germelino Bautistaより助言を受けた。 第2に、これまでの成果について、口頭報告2回 、執筆4本、翻訳(共同)1冊を行なった。前者は、世界からフィリピン研究者が集う国際会議(The 10th ICOPHIL)、および、2)ハーバード大学と東京大学の共催で行われたAsian Cities: Hubs of Interaction, Tradition and Transformation. Harvard-U Tokyo Conference 2017で報告、後者としては国内学会からの招待論文、モノグラフ各1本のほか、昨年度につづき複数の家族のオーラルライフヒストリーの英語翻訳をHYIのワーキングペーパーとして2本掲載、また生業の分析に先立ちLSEのNaila Kabeer教授の代表作Power to Chooseの共同翻訳に参加した。 第3に、映像制作を導入した。本プロジェクト申請時の予定にはなかったものの、本プロジェクトの核をなす現地調査を実施していくなかで、調査対象であり、また協力者であるサマ人の住民との相互作用により、生まれてきたひとつの記録方法であり、協働・対話の方法である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年目にあたる平成28年度は、単年度としては当初の予定よりも研究を進めることができ、これにより一昨年度における当初の計画に照らしての遅れを十分にとりかえし続けているため、おおむね順調に進展していると言える。より具体的にいえば、つぎのような過程を経てのことである。 すなわち、初年度にあたる平成26年度は、不測の事態として調査地が火災で全焼してしまったため、「研究どころ」ではなくなってしまい、むしろ現地の住民(被災者)の状況を把握するための緊急渡航やそれにまつわる支援や報告でおわってしまった。火災の余波は大きく、昨年度の調査は、調査地住民が、おもにFBO (Faith Based Organizations)やNGOなどからの支援物資や資源(人的ネットワーク、情報を含む)をテコとしながら、ダバオ市内のまったく別の場所に移転したのみならず、3つの居住地に分散したことの把握にほぼ費やされた。いわば、住民台帳をゼロから作るような話であるので、とてもではないが、本プロジェクト申請当初の「計画」通りに調査を進めることはできず、またフィールドワークの真髄を考えるのであれば、むしろ積極的に計画を変更して立ち向かうことが必要な場面であったと考える。 こうして迎えた3年目の本年度は、新しい居住地区に落ち着きはじめた住民を前に、ようやく本プロジェクトのコアである宗教(ペンテコステ)と生業(パール行商)に焦点をあてた現地調査に時間を費やすことができた。ペンテコステにかんしては、外国人宣教師のもつ情報にアクセスすることにはいくつかの点で困難があるものの、調査地住民の実践にはアクセスしやすい。一方で、生業は、パール行商、また同時に観察される古着・古靴の行商も含め、国境を跨いだ複雑なエスニック経済かつインフォーマル経済の一部であり、その一部が非合法活動であることも判明しつつあり、調査方法を再検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成29年度は、応募時の問題意識を念頭におきつつも、調査地の動態に応じて研究計画を適切に調整し、のこりの期間全体においてより効果的に進め、その成果をまとめ、つぎの研究課題として展開しうるよう、つぎの4点を行う。 第一に、ひきつづきの文献調査である。ただし、これまでとはことなり、最終的な成果物(単著の公刊)を意識して、そのフレームワーク/序論につながるように角度をつけた読み込みをしていく。 第二に、フィールドワークである。これは現在ややまよっているが、すでに収集した一次資料の「確認」を行うか、その捕捉をおこなうか、あるいは可能なかぎりその両方を行うか、である。最終年度であることを意識して、無理のないような、しかしより深く調査地の実態に迫るような内容を5月ごろまでには決めていくつもりである。 第三に、過去に収集したオーラルライフヒストリーの翻訳の継続である。現在までに、『白山人類学』に1章分、Harvard-Yenching Institute Working Paper Series (HYIWPS)に3章分を発表ずみであり、また2017年4月中にHYIWPSにさらに1本が掲載される予定となっている。のこり1章を発表すれば、本科研プロジェクト期間中に予定していた全6章分の公表を終える。その後、書き直し、序論、結論の執筆を経て、フィリピンを含む英語圏読者を対象とした民族誌の発表を考えている。 第四に、マクロ経済指標の収集である。これは当初予定していたよりも遅れており、諸々の事情により困難に直面している。そのため、昨年より、かつて指導教授であったDr. Germelino Bautistaに指導を仰いでいる。「ダバオ市の発展史」の把握を目指すことにしたため、プロジェクト期間内に十分な資料収集はできない可能性があるが、地元の研究者との連携を育みながら取り組んでいく。
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Research Products
(7 results)