2014 Fiscal Year Research-status Report
ポスト・イスラーム主義と政治:トルコの公正と発展党政権下民主化改革を事例として
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26360002
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
澤江 史子 上智大学, 総合グローバル学部, 准教授 (70436666)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ポスト・イスラーム主義 / トルコ / イスラーム政党 / 地域研究 / ポスト世俗主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、東京外国語大学主催の中東☆イスラーム教育セミナーでの講演の機会を利用して、トルコの政治分析においてポスト・イスラーム主義という概念がどの程度、あるいはどのように、意味があるのかを検討した。公正と発展党政権は、親イスラーム勢力への抑圧問題や国内マイノリティ問題への解決姿勢という点でポスト・イスラーム主義的言説を展開しながらも、権力掌握後には権威主義的化していると批判されてもいる。ただしそれは、グローバルな政治傾向であるセキュリティ重視姿勢や、トップダウン的な開発政策実施志向、さらにトルコに特有の文脈としては、民主的選挙プロセスと同時並行的にクルド武装勢力との和平を実現するために必要とされる世論捌きの技術という側面もある。つまり、単純にイスラーム系政党の自由権利擁護志向の前進・後退としてではなく、グローバルな政治経済環境や国内の現実政治の諸条件の中でその志向の範囲が拡大や縮小をするという、全体のなかに位置づけた分析が必要である。その意味で、ポスト・イスラーム主義は理念型であり、それが当てはまるか否かという議論の仕方は生産的でないと指摘した。 また、NIHUイスラーム地域研究東京大学拠点中東民主化研究班での発表で、上述のような公正と発展党の政治的方向性に対抗するために、世俗派の主要野党の間でも、イスラームにより開かれた主張やイメージづくりが始まっていることを指摘し、ポスト・イスラーム主義的傾向の定着や成熟は、他方でポスト世俗主義との相関において進行するのではないかとの着想を得た。この点については本研究の主要検討課題として2年目以降に研究を進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では本年度は、2014年3月から始まり2015年6月まで3種の選挙が続く選挙イヤーであり、その趨勢についても把握する必要があることに鑑み、ポスト・イスラーム主義に関する先行研究の渉猟による概念研究や、公正と発展党政権の具体的な政策分析ではなく、報道メディアの言説分析を通じてイスラーム的公共圏とポスト・イスラーム主義との関係を検討する予定であった。しかし、「研究実績の概要」欄に記した2回の発表の機会を通じて、ポスト・イスラーム主義に関する先行研究の中間的レビューを行うとともに、公共圏という言説の場ではなく、トルコの現実政治が置かれている政党政治の文脈や国内外の政治経済的状況との相互関係に位置付けながら分析をする機会を得た。そのため、当初予定を変更し、より後の段階で実施の予定だった検討課題を先に実施することにした。結果的に検討の順序が変更になったが、全体としては、本研究が取り組むべき課題と考えていた論点について取り組むことができたといえ、概ね順調に進展していると判断できる。特に、当初は、どのように関連付けるべきかが明確でなかったポスト世俗主義について、相補的関係にある概念ではないかとの仮説を得ることができたことは、今後の本研究の進め方において重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」欄で述べたように、当初計画と研究課題を取り上げる順序を変更したことと、ポスト世俗主義との相互連関においてポスト・イスラーム主義を位置付ける必要が出てきたことから、今後は当初計画で取り上げる予定だった課題と関連付けながら以下のように研究を進めていきたいと考えている。まずは、2015年6月の総選挙に向けて各党が出してきた選挙公約や政治ヴィジョンをポスト・イスラーム主義とポスト世俗主義との相関という観点から分析する。その際に、当初から研究対象の争点として取り上げる予定だったクルド問題とアレヴィ問題について特に注目する。また、ポスト・イスラーム主義とポスト世俗主義との相関的進展という問題について、トルコ政治史の観点から分析をするとともに、どのような条件においてそれが可能になったのかについて、ポスト・イスラーム主義やポスト世俗主義に関するトルコ以外の先行研究をも参照しながら、概念的・理論的な側面での検討をめざす。
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Causes of Carryover |
平成26年3月に実施済みのトルコ現地調査の旅費精算手続きが、帰国日が3月29日であった関係で平成27年度の取扱いとなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の通り、平成27年4月に平成27年度予算から清算済みである。
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Research Products
(5 results)