2016 Fiscal Year Research-status Report
現代アフリカにおける土器をめぐる創造的実践知の生成とマテリアリティの変成
Project/Area Number |
26360009
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金子 守恵 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (10402752)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アフリカ / 土器 / マテリアリティ / 観光化 / 創造的実践知 / エチオピア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はエチオピア西南部を主な調査地として土器をめぐる創造的実践知の生成とマテリアリティの変成をあきらかにすることをめざし、創造的実践知によって生成された土器の3つの特色(1.観光化、2.工業化、3.非宗教化)にそって平成26年から4年間にわたって研究にとりくむ。 第3年次(28年度)は「工業化」「観光化」というキーワードをむすびつけて、土産物製品つくりにおける製作過程の標準化・規格化と伝承の過程との関連性について検討した。土器つくりなどのように地域内で入手できる素材を利用して製品をつくりだす際に職人たちは素材の特性にあわせながら製品を創りだしている。このような特性をもつものつくりにおいて、大量の製品を製作する際には一定の基準にそって素材を入手する必要性が生じる。この基準には製品の「美しさ」のような価値に関わる要素が含まれている。そしてその基準には観光客の生活実践にあわせた機能性と彼らによる対象地域に対する一定の「イメージ(例:天然素材など)」が内包されている。調査対象にした製作グループ内では個々のメンバーによって素材となる葉柄の模様に対する「美しさ」についての基準が異なっており、それによって製品を規格化できない状況が生じていた。 これらに加えて、世界人類学民族学連合中間会議(平成28年5月4-9日、於クロアチア)で成果の一部を発表し、エチオピアにおける在来技法の生成と近代学校教育との関わりに関して学術的な交流をおこなうことができた。また、世界考古学会議においても、成果の一部を発表し(平成29年8月28日-9月2日)身体化された知識と物質文化の創造と継承との関連性について学術的な交流をおこなった。さらに京都大学アフリカ地域研究資料センター・公開講座(平成28年11月26日)において「アフリカの女性職人から学ぶ」というタイトルで研究成果の一部を社会に還元する活動にも従事した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第3年次の調査研究における大きな達成点は、土産物や製品つくりという対象を継続的に調査したことにより、グローバルな市場をターゲットにした際に生じる価値基準について現場の対応やその可能性について検討できたことである。次年度には、対象となる製作グループに対して継続的な調査をおこない、販売実績や利益の配分の仕方に加えて、製品にたいする評価の基準や素材の選別の仕方について、個々のメンバーに対してそれぞれの評価や判断基準についての調査をおこなった。 また、植物素材を利用して製品を創りだすことやその製作技法や知識に注目することを介して、日々の生活に利用されている日用品などの「もの」がその機能を果たさなくなった際のあつかわれ方(捨て方)にも関心をひろげるようになった。とくに、植物素材としての物質的な循環とその循環に関与する際の人間の知や技法との関わりについて着目し、それらと循環しないもの(たとえば使い終えた学校のノートや用途を失ったプラスチック製品など)と人間の知や技法との関連性についても検討をすすめるようになった。一定の用途を失った「もの」の特性をさぐることは、あらたなものを創りだすこととそれを生成させる知や技法を検討することにつながることであり、そのような着想を得られたことはたいへん意義深いと考えている。 これに加えて、世界人類学民族学連合中間会議や世界考古学会議など、異なる分野の国際会議においてアフリカでおこっている技術や知識の実践と変成について研究成果を発表することにより、学問領域をこえてアフリカで現在生じている状況を理解するための学術的な交流の機会に恵まれた。さらに、こういった学術的な成果を公開講座によって発信する機会を得ることができ、現代アフリカのものつくりについてのイメージを、よりアフリカに暮らす人びとの視点にたって日本に生活する人びとに伝えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度をむかえるにあたり、今後の研究の進捗については、大きく以下の3点を念頭においている。ひとつめは、マテリアリティの変成を描きだすためのキーワードである「観光化」「工業化」「非宗教化」とそれに関わる事象を、さまざまな状況やそれらの事象をめぐるヒトと「もの」との関係性に留意して検討する。素材に限らず製法についての「美しい」仕上がりを達成するような基準についても検討したうえで、製品に対するあらたな判断基準の生成の可能性を検討する。さらには大量に製品をつくり出す際に有効と考えられる製作方法の標準化や規格化と、多様な判断基準とそれにむすびついた価値基準の創造といった課題について考察する。 ふたつめは、一見すると製作とは正反対な事象として位置づけることができる、不要となった「もの(土産物や日用品など)」について、その循環の過程を追跡し、不要物となっていく契機や基準といったことについて予備的に検討する。土産物のようなグローバルな市場にむすびついたあらたな市場が地域内に生成されていくことを契機にして、要・不要の基準や「価値」の基準が生成されていく過程(多層的な関係の様態)を把握していくことを介して、あらたな「もの」をつくりだすことの意味やそれにかかわる人と「もの」との関係性について考察をふかめる。 最後に、これらの検討や考察をふまえたうえで、それを成果論文として刊行する予定である。
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Research Products
(7 results)