2014 Fiscal Year Research-status Report
東アジア資本の進出にともなうラテンアメリカの産業高度化の可能性と課題
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26360025
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
藤井 嘉祥 専修大学, 経済学部, 兼任講師 (30625190)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | グアテマラ / メキシコ / 中米 / アパレル産業 / 輸出工業化 / 産業高度化 / 社会的高度化 / 韓国企業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はメキシコ・中米のアパレル輸出工業化における東アジア資本の影響を多角的に分析し、企業中心的な産業高度化論を多様な政治・経済・社会の主体の相互作用を基盤とする産業高度化論へと発展させることを目的としている。そのために本研究では①環太平洋国際分業の再編成の分析、②東アジア企業の輸出生産戦略、③労使関係の諸領域を分析に取り組んでいる。 26年度は上の3点のすべてで進展を得た。第一に、環太平洋アパレル貿易とアジアからメキシコ・中米への直接投資の状況を、国際機関や各国の統計資料をもとに直接投資の動向の分析に取り組んだ。第二に、当該年度の8~9月と2~3月に実施したメキシコとグアテマラでの企業、業界団体、政府関係機関での聞き取りから、2005年のアパレル貿易の自由化以降、メキシコではアジア資本のプレゼンスが急速に低下する一方で、グアテマラでは国際競争の激化に対応した韓国企業の高度化の進行が明らかになった。第三に、グアテマラでのNGOと労働者への聞き取りから、韓国企業における労働争議の過程の分析を行った。企業の社会的責任が広がる一方で、グアテマラでは企業、政府、司法が労使関係の制度化の推進者となっておらず、産業高度化の促進には地域統合レベルの国際的圧力が不可欠であることが明らかになった。 以上の研究実績には2つの意義がある。まず、アパレル貿易自由化による中米からの東アジア資本の撤退が想定されていたが、グアテマラの韓国企業がニカラグア、ハイチにも進出するなど中米・カリブにおける韓国企業の新たな輸出生産戦略を明らかにしたことである。第二に、企業の社会的責任が産業高度化の促進に不可欠だが、経済のグローバル化の中で企業統治をサプライチェーンの末端まで貫徹することが困難なことから、地域経済統合等の国際的枠組みによる労使関係制度の改善を強いる圧力が重要であることが確認されたことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
産業高度化の分析には企業による工場調査の許可が不可欠だが、グアテマラの韓国企業とメキシコ・ユカタン州の香港企業から早期に協力えて、調査を進めることができた。26年度に終える予定であった環太平洋アパレル国際分業に関する統計の収集と分析が若干遅れているが、27年度に開始予定であった労使関係の調査を、NGOと労組の協力を得て前倒しして開始できたため、本研究の目的達成に順調に近づいているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、企業中心の産業高度化論を乗り越えるために、アジア資本の動向に着目し、ラテンアメリカ、アジア、米国の三極の関係を軸に政治・経済・社会の多様な主体の参加による産業高度化の分析枠組みの構築を目指している。今後は、環太平洋アパレル国際分業の分析が遅れているため、前倒しできた27年度に予定していた労使関係に関する現地調査の時間を国際分業の研究に充当して対応する。加えて、企業調査を継続するとともに、メキシコの香港系企業の自社ブランド戦略の調査に着手する。26年度に開始した労使関係の分析に置いて、現在進行中の中米自由貿易協定における米国とグアテマラの労働基準をめぐる訴訟が重要な意味を持つことが明らかになったため、その訴訟の行方を労組とNGOの協力を得て追跡調査する。
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Causes of Carryover |
メキシコやグアテマラでは交通機関のダイヤが不正確であるため、政府機関や企業の担当者との面会時間を厳守するには車の借り上げ等が必要になる。さらに、26年度のグアテマラでの現地調査において、治安状況の悪化による安全確保および円安の進行により移動手段の確保に想定以上の費用がかかる結果となった。当該年度の研究においては必要な資料の収集と現地調査を十分に行えたことから、年度末の時点で資料等の物品を早急に購入する必要が生じなかった。そのため、若干の残額については次年度の現地調査における移動手段の確保に有効活用したほうがよいと判断し繰り越しとしたことから次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、平成27年度8月に予定しているグアテマラにおける現地調査において、聞き取り調査のための企業や政府関係機関への訪問の際の移動手段の確保のために使用する。
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Research Products
(2 results)