2017 Fiscal Year Research-status Report
インド災害後のローカル文化再編におけるコミュニティ資源としての「手工芸」の意義
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26360035
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
金谷 美和 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 外来研究員 (90423037)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 災害 / 手工芸 / インド / ローカル文化 / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、自然災害後のローカル文化の再編について明らかにすることを目的に、インド、グジャラート州において2001年の地震で甚大な被害を受けた更紗の生産者たちを対象に文化人類学的研究に取り組んでいるものである。生産者たちは、危機的状況にあった生業を復興・維持するために組合を結成し、新村を建設して生産基盤の移転をはかっている。生産者たちは、「手工芸」をコミュニティ資源として活用することで、国内外の支援をあつめ、新村建設を成功に導いた。本年度は、これまで調査をおこなった被災村やその周辺で生産されてきた染織品資料についてのデータ整理を、研究補助者の助力を得ておこなうことができた。また、東日本大震災の被災地において手仕事を媒介として住民の復興にとりくむ事例を見学した。 前年度までの研究において、在来技術による染色品生産が「手工芸」という概念と領域に包含され、「手工芸」がグローバルに通用する記号となり、支援のネットワークをつくり、そのネットワークが新村建設の推進力となったことを示した。今年度は、在来技術に依拠した多様な染織品のうち、「アジュラク」という特定の染織品だけが、新村復興のシンボルとなった背景を明らかにし、「アジュラク」の知名度があがるにつれて、生産需要が増加し、雇用創出につながっていることを明らかにした。そして、雇用を求めて周辺村から新村への移住希望者があらわれるなど、染色産地として安定した発展がみられることを示すことができた。その成果について、論文としてまとめることができた。さらに、今年度の研究では、災害後、社会が平常に戻る際に含みこまれていく文化変化の内実について、移住者の世帯調査とライフヒストリーの分析によって明らかにしつつある。その成果は、来年度の文化人類学会に発表予定である。さらに、論文を投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、課題1と課題2から成る。課題1は、新村建設を契機として、カッチ地方に散在する染色業拠点が「産地」として統合されていく経緯を示すことであった。課題2は、①在来技術による染色品生産が「手工芸」という概念と領域に包含されていくこと、②「手工芸」がグローバルに通用する記号となり、支援のネットワークをつくること、③そのネットワークが新村建設の推進力となったことを示すことであった。研究課題1、2ともにおおむね順調に進展することができた。 研究課題1に関して、前年度までにおこなった世帯調査の追跡調査をおこない、産地統合がすすんでいることを明らかにした。さらに、生産需要の拡大にともなって、旧村以外の周辺村からの移住者を確認し、産地が安定して発展していることを明らかにすることができた。しかし、旧村以外からの移住者の来歴に関わるデータを分析しているうちに、移住が示すのは、単に災害からの避難ではなく、染色産業をめぐるより長期的な社会的経済的変化に対応するための移住であることが分かってきた。その内実を明らかにするために、予定していた現地調査を来年度に延期し、データの分析に時間をかけてとりくむことにした。 研究課題2に関しては、染織資料データの検討により、多様な染織品のなかから「アジュラク」のみが、コミュニティの共有資源としてシンボル的に活用されていく過程を明らかにすることができた。国立民族学博物館などでおこなわれた研究会において発表したり、同僚研究者と議論をおこなったりするなかで、データを多様な角度から検討することができた。このように、良好な調査環境や研究協力を得ることができたために、研究計画どおり、順調な進捗状況をみることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、当初の計画通りインドでの現地調査(2週間程度)を行う。アジュラク村建設過程について組合代表にインタビューを行うほか、今年度のデータ分析によって判明した課題について集中的に聞き取り調査をおこなう。その課題とは、①新村への移住が、単に災害からの避難ではなく、染色産業をめぐるより長期的な社会的経済的変化に対応するための移住であること。②コミュニティ資源として活用された「アジュラク」のオーセンティシティをめぐる対立がコミュニティ内部で発生していることである。ローカル文化について重要な論点が現場で発生していることを真摯にうけとめ、最終年度の研究において解明に迫りたい。最終年度のため、現地調査は年度前半におこない、データの整理と分析をすすめ、民族誌の執筆に集中する。 また、東日本大震災の被災地に関する文化人類学的研究の成果が続々とあらわれ、本研究の研究課題と関心を等しくするような、災害被災地の文化変化や文化復興を論点とするものが注目された。震災から15年経過した本研究の成果は、日本の事例研究にとっても意義があることを改めて確認した。他の被災地の事例やそこで論じられている文化を主題にした復興や文化変容についての研究を参照し、比較研究が可能になるような論点を提示することも視野にいれて民族誌執筆をおこなう。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた現地調査を、来年度に延期したために、次年度使用額が生じた。延期した理由は、昨年度までに収集したデータの分析の過程で、当初想定していた以上の成果がみられ、その課題にとりくむために、今年度はデータの分析と考察に集中することにしたためである。次年度使用額は、当初の予定通り、現地調査をおこなうことに使用する計画である。
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Research Products
(1 results)