2016 Fiscal Year Research-status Report
高度成長期後の製造職既婚女性の労働-生活史変容に関する実証的研究
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26360043
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
木本 喜美子 一橋大学, 名誉教授 (50127651)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 女性労働と家族 / 労働-生活史 / ジェンダー / 女性労働史 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦後日本の女性労働の雇用慣行とその労働-生活の変容を、近代家族規範との関係において明らかしようとする本研究では、当初たてた研究計画の一部を変更し、おおむね平成28年度に取り組むべき課題を順調に果たすことができた。 (1)まず女性労働史研究の方法論の検討を進め、国内外の労働史研究の文献サーベイをさらに進める過程で、新たな研究動向を見いだすことができた。また国際労働過程学会(平成28年4月4日~6日、ベルリン)に参加し、女性労働に関するセッションおよび女性労働の特徴と重なるプレカリアートに関する研究発表に多数接し議論することができたことで、本研究への多くの示唆を得た。さらにヘルシンキでの女性の介護労働を中心とする聞き取り調査(平成28年8月21日~29日)に参加し、日本の製造業から第三次産業への歴史的移行過程と北欧型福祉国家フィンランドのそれとを重ね合わせつつ女性労働史を把握する視野を得ることができたことも、本研究を推進する上で大きな収穫となった。 (2)調査地および調査対象として位置づけてきた八王子市、八王子織物に関しては、八王子女性史研究会を中心とする詳細な既存研究の読み込みを行い、検討を重ねた。その結果、本研究課題の中心的な事例として、八王子を位置づけるのはかなり難しいとの結論に至った。したがって近代家族規範との関わりにおいて女性労働を位置づけようとするためには、すでに調査を実施している福井県勝山市の調査データを中心的に据え、この分析を深めることこそが重要であることがあらためて判明した。そのため平成22~25年度科学研究費補助金・基盤研究(B)「<女性労働と家族>の史的再構成に関する実証的研究」によって得られたデータについて、上記の方法を最大限に生かしながら分析を深める作業に取り組んだ。それをもとに、来年度中に単行本を刊行する目処を立てることができ、企画書の執筆を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず方法論的探索については、今年度は、国内外で新しい研究動向を発見したことでさらなる彫琢が可能となった。日本の労働社会学研究のプロパーの一人・鈴木和雄教授が英国エセックス大学のミリアム・グラックスマン教授の方法に注目し、労働過程分析にとってそれの持つ意義について用意していた論考(「二つの経済とTSOLアプローチ(1)(2)」『弘前大学経済研究』2016年12月25日・26日)をめぐって、議論を深めることができた。また英国LSE教授のナイラ・カビール教授が縫製業に関するケーススタディ(『選択する力』ハーベスト社、2016年)で用いた方法は、グラックスマン教授のそれと通底し、本研究に示唆するところが大きい。そこで、著書に対する書評と著者の側からの応答などが掲載された学会誌を、英国LSE図書館にて収集した(平成29年3月31日)。 また前述したように、本研究の対象として考えてきた八王子織物については、入手資料の詳細な検討を経て、本研究の中心的事例として位置づけることが困難であるとの結論を得るにいたった。八王子女性史研究会が元女性労働者への詳細なインタビュー調査を行い、サークル誌のような形で刊行を行ってきており、これらと重なる調査に取り組むことに意義を見いだすことができにくいためである。また八王子における都市化に関する研究を渉猟した結果、近代家族規範と都市化との関連を把握することが理論および実態の両面において困難であることが判明した。今後は八王子事例に関する既存研究を参照しこれに位置づけを与えつつ、福井県勝山市の調査ケースを中心的な事例とし、本研究が到達しつつある方法的視点によってさらに掘り下げ、その成果を単行本として刊行することにした。この一年間は八王子と福井県の資料を両睨みして作業を行うことによって、本研究の最終年度たる平成29年度の課題を絞り込み明確化することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の課題は、福井県勝山市の調査事例の深い分析を中心とする単行本を刊行するために、論文執筆をしていくことにおかれる。 (1)そのために、これまで探索してきた女性労働史研究における方法上の問題を、すでに執筆済みの論文をもとにしてまとめなおし、本研究プロジェクトの独自性ある方法と課題設定を据える必要がある。そこには、これまでの国内外の学会参加とレビューを受けた研究者から得られた知見を最大限に生かす必要がある。中心的な対象となる福井県勝山市の位置づけを明確にし、事例分析から明らかにしうる範囲を確定することも大きな課題となる。 (2)すでに得られている福井県勝山市の調査事例の深い読み込みをさらに進め、これまで探索してきた方法的視点との整合性をはかりつつ、同時に視点のさらなる展開を目指す必要がある。そのために福井県での再調査を、必要に応じて追求することとしたい。したがって、こうした福井県勝山市の事例を中心に据えることになり、すでに述べた平成22~25年度の科学研究費補助金・基盤研究(B)によるインタビュー調査データ、および本研究において継続的に収集してきた当該地域のデータ・資料および情報が、不可欠の基盤をなすことになる。 (3)この単行本の中心には、本研究の中心的対象である織物業に従事してきた既婚女性労働者の労働-生活史の変容過程が据えられる。同時にこの単行本では、この人々の労働過程分析をも包摂し、また地域コミュニティとの接点、自営業における女性労働との接点、労働組合との関わり等を探求する視野の広がりを欠かすことができない。そのため、予定している単行本には、研究代表者の論文を主軸におきつつ、科研費(平成22~25年度)による共同研究者の執筆参加を得る形で章別編成した企画書を執筆し終えている。なお最終章では研究代表者が、本研究を閉じるにふさわしい研究総括を行う予定である。
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Causes of Carryover |
誤差の範囲内である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画に変更はない。
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Research Products
(2 results)