2015 Fiscal Year Research-status Report
ICT活用による里山フットパスの開発と農村振興への仕組みづくり
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26360066
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野村 久子 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (60597277)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢部 光保 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20356299)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 里山フットパス / 世界農業遺産 / 農文化システム / インバウンド観光 / 農村振興 / 阿蘇 / 秋吉台 / 草原保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず,フットパスの経済的価値を検討する上での基礎的な考え方を整理した。自然の中に広がるフットパスは,無料で使うことができる。来訪者は,景観を楽しみ自然の中を歩くことが個人の便益になるが,同時に,利用者が増えればそれに応じてフットパスの保全整備も必要となるというトレードオフの関係がある。そこで,持続可能なグリーンツーリズムを推進するためにも,保全整備に必要な活動に対して募金を募ることが可能か検討した。具体的には、実際にフットパスを楽しむ市民を対象にフットパスの価値についてアンケート調査を行った。調査地は,自治体がフットパスを活用した秋吉台カルストウォークを行っている美祢市に協力を得て行った。 第2に,ICTを活用して国内の訪問者,海外からの訪問者の阿蘇の訪問先についてデータ入力を行った。富士通のソフトにデータを入力することで空間データとして視覚的に把握することが可能であることを確認した。これについては,H28年度も継続して行う予定である。 第3に,第3課題として挙げていた,国内外からの阿蘇への来訪者の観点からのニーズの把握を,日本語,英語,中国語,台湾語による統一したアンケートで行った。具体的には,阿蘇駅において,国内外からの観光客が得ている阿蘇についての情報について把握し,そこから見えてくる課題を整理した。同時に,海外からの訪問者のニーズを把握し,情報提供コンテンツの中に組み込めるような情報を整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず,第1について,阿蘇と同様の草原が国定公園となっている秋吉台を調査地として,秋吉台地フットパスのウォーキングイベントの参加者を対象に草原の保全価値と歩く便益からくる価値について評価を行った。評価の結果,保全管理に必要な予算に見合う募金金額が得られることを示すことができた。また,調査結果から,具体的な啓発活動を行うことで,基金の充当率が上がるという政策提言につながる情報が得られた。それらについては,美祢市に対して,具体的な啓発活動の内容を提言を行った。 第2に,ICTを活用して国内の訪問者の訪問先といった情報を把握した。世界各国の旅行者たちが当該地域のどの地点からどのような情報を発信しているかについて予備調査を行なった。2015年9月15日現在のインスタグラムにおいて#asoや#阿蘇といったタグがつけられた投稿を,日本人384人,外国人402人の合計786データ分析した結果,日本人64(16.67%)および外国人28(6.97%),全体でおよそ1割程度(11.70%)が(記録措置を講ずべき)有益な情報として得られることが分かった。H28年度はそれら記録措置を講ずべきデータを増やす形で実際にデータ入力を行い分析を行っていく。 第3に,第3課題として挙げていた,国内外からの阿蘇への来訪者の観点からのニーズの把握を行った。ネットで英語あるいは来訪者の母国語による得られる情報も増えているものの,それ以前に,阿蘇に対するイメージが限定的であり,それが彼らの訪問時の活動を限定的にしている,あるいは滞在先を決めるときの判断材料として利用されていることが分かった。物理的なアクセスと情報のアクセス向上につながるような情報の整理を行った。一方で,来訪者の潜在的なニーズの把握により,地元の効果的な情報提供につなげられるようコンテンツを整理した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,公共財の1つであるフットパスを,ロングライド(サイクリングのイベント)やロングラン(自然を駆け回るマラソン)といったイベントを通じて私財化することでフットパスの整備支援を募る。継続的な保全整備方法を提案することで,サステナブルな里山フットパスの保全整備の在り方を検討する。これは,これまで主に行政支援で行われてきた公共財の維持について行政の支援以外の支援方法を検討することにつながる。また,行政と協力して調査を行っていくことで研究成果が政策構築に効率的に貢献することが期待できる。 次に,里山フットパスが開発されることで,受益者となるホテルなどを巻き込んだ農村振興支援の可能性を探る。 最後に,海外からのインバウンド市場を取り込んだ農村振興支援の可能性を探り,観光促進による経済規模の提示を行う。 なお,H27の成果は国際学会や論文として順次発表し,研究成果を社会に発信していく。
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Causes of Carryover |
昨年11月に科学研究費助成事業前倒し支払請求を行った。申請の段階では、今年度阿蘇市に訪問する海外旅行者を対象にアンケート調査を行う予定にしていた。しかしながら、熊本県の阿蘇火山中岳で2014年11月25日に噴火発生以後阿蘇の火山活動が続き、とくに、2015年9月14日からは、阿蘇山に火口周辺警報(噴火警戒レベル3)が発表された。このため海外からの訪問者は限定的であり、サンプルの無作為抽出にバイアスがかかることが懸念された。福岡空港であれば、九州への海外旅行者が集まる場所であることからアンケート調査が可能である一方で、回答拒否も多く出ることが想定される。それに対応するために、調査場所を阿蘇以外の福岡空港でも行うこととし、それに伴い増加する学生アルバイト雇用のため前倒し申請を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の通り、調査場所を阿蘇以外の福岡空港でも行うこととし、それに伴い増加する学生アルバイト雇用のため前倒し申請を行った。しかし、その後、2015/11/24午後14時00分、噴火警戒レベルが2に引き下げられ、二次規制が解除になった(一次規制中:火口周辺の概ね1km範囲内の立入規制中)。しばらくは阿蘇観光協会や市の観光課に問い合わせながら様子を見ていたが、2月になり海外からの訪問者も戻ってきているということで、3月に当初通り阿蘇でアンケート調査を行った。2日かけて4人で200近くのサンプルを回収することが可能であり、前倒しは大変有効であった。日程調整の関係で調査はH28年度にもう一回行う予定である。
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