2015 Fiscal Year Research-status Report
アートをまちにひらくことによる新たな地域振興と芸術表現のかたち
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26360079
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Research Institution | Tokyo University of Technology |
Principal Investigator |
酒百 宏一 東京工科大学, デザイン学部, 准教授 (90293026)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アートにおける地域振興 / ワークショップによる協働 / 地域産業遺産の活用 / 美術教育による地域学習 / 地域による記憶の共有化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目(2015)の活動は、初年度における地域振興としてのアートイベントや国際的なアートイベントなどの実地調査とワークショップ活動を踏まえ、この活動を大田区の地域活動として定着させ、独自の地域振興として魅力ある芸術表現に展開させていくための基盤づくりを行った。 この活動では現代の工場ではなく、土地と人との営みの記憶として昭和から現在にかけて受け継がれる昔ながらの町工場を取り上げ、その記憶を次に継承する意味で、過去から現在につながる現場での現実を一般の方々と共有する取り組みとして組み立てた。 また、大田区の町工場密集地である東部地区(糀谷、大森東、六郷)を拠点とするこれまでの活動実施例は少なく、本研究のきっかけともなった北糀谷の町工場を一つの拠点とできたことは、今後町工場を地域振興として扱う意義は大きいものであったと考える。 本年度におけるワークショップ活動は、5月、6月、11月に合計6回行った。そのなかでも大田区立郷土博物館を主催としたまちづくりの歴史を展示する関連事業に本研究活動を取り入れてくれたことは当該年度の活動の実績としても大きいと考える。また大田区地域力推進課生涯学習の事業「おおた区民大学」に講師として招かれた経緯で、区民の方々との直接的な交流をもつことができた。この事業への参加は、本来この研究での取り組みではないが、結果としてこの交流が今後研究活動につながるものとして大いに期待できるものとなった。 また、今回ワークショップ会場として使用したギャラリー南製作所も大田区西糀谷の旧町工場だった空間を利用しており、3月にはギャラリーの企画展に招かれ、本研究活動を展示発表できたことも、これまでの研究発表や今後のワークショップ活動などにつながる実績となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究テーマである「アートをまちにひらく」として、まちなかの何でもない場所を会場として作品づくりを行うことと、まちをアートの対象として見ることやつくることを行っていくということが当初の計画以上に実践できていると考える。 まず研究のきっかけともなった北糀谷の町工場をそのまま地域資源として特別に公開して現場を見てもらうことで、住宅地のなかに存在する町工場の大田区らしいまちの空気を感じてもらうことができたことが活動の足がかりとなり、その北糀谷の町工場を中心にしてプログラムに3つの地域振興としてのコンテンツを構成することできた。一つ目は、その町工場の見学。二つ目は、特徴的な工場まちとしての建物のつくりやまちの形成を記憶として現在のまちから見つけるといったまち歩きのコース設定。三つ目は、町工場でかつて使われていた職人の道具に直接触れて、思い思いに作品をつくる体験。こうした芸術表現としてのワークショップや大田区での地域振興の雛型として、今後もさまざまな工場を見学場所として設定できるものになったと考える。 また当初計画していた中間発表の機会は、まだその段階ではないと判断し、開催しなかったものの、今年度終わりに、大田区西糀谷のギャラリーでの企画展に招かれたことで、最終展示に向けた広報的な意味や活動の成果を確認するための機会にすることができたと考える。 このようにこれまでの活動を継続してきたことで、関連する方々との交流が生まれたことは、本来計画できないことで、そのことによる展開が研究を良い方向に進展させている。 さらにワークショップ活動では、毎回参加者を募集して行っているが、11月29日の最後の回では、これまでで最も多い参加者が集まり、定員の15名を超える応募があった。その結果からも活動が少しずつ浸透しているという手応えを感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となるH28年度では、これまでの活動の成果を広く区内外に発表し、大田区の町工場がかつてどのようにあり、現在につながっているのか、またその現状について認識し、理解してもらいたいと考えている。そのため都市部での場所を使った発表の機会を得ることを意図として民間企業主催のソーシャルデザインコンペに応募した。そしてH28年5月現在入選の結果をすでにいただき、6月に新宿で発表する機会を得たことで、今後さらに広報的に広めていけるのではと期待できる。 また、これまでの活動をさらに展開させて継続していく。前述の通り活動の継続によって、関係者からの理解やつながりも生まれており、北糀谷の町工場以外に本羽田の熔断工場と西六郷の町工場2箇所の建物を取り壊す予定という情報をいただき、この2箇所を加えた3箇所の町工場でH27年度同様にまち歩きと見学を兼ねた作品づくり体験を実施する。 そして秋には、それらの活動を通じて集めた作品を一堂に展示発表し、これまでの研究活動の記録を発表する機会をつくり、多くの区民や町工場に関わる方々、芸術表現活動に関わる方々に見てもらいたいと考えている。また、記録を冊子としてまとめることも計画しており、一時的な交流の場をつくることと、それを次につなげることとして今後は進めていきたいと考えている。 またこの発表には、大田区で同じく町工場を地域資源としてまちづくりの活動をしている「おおたオープンファクトリー(主催大田観光協会)」の活動と時期や目的も重なるため、共催というかたちで実施したいと考えている。
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Causes of Carryover |
H27年度に計画していた毎月ごとのワークショップ実施ではなく、特定の時期(5・6月と11月)に集中させたことにより、ワークショップ回数が減ったことで費用負担も抑えられた。また2度の国内出張の計画は、個人的な都合により実行しなかった。また、展覧会及びレクチャー実施の計画も研究の進捗状況をふまえ見送ったことで、支出額が当初の計画よりも減り、残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
展示用の備品等の使用や記録冊子のための費用、地域振興事業視察として新潟県燕三条市で開催される「工場の祭典」瀬戸内国際芸術祭の旅費に使用する。
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