2015 Fiscal Year Research-status Report
日本型ダークツーリズムの確立と東北の復興を目指して
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26360082
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
井出 明 追手門学院大学, 経営学部, 准教授 (80341585)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高野 宏康 小樽商科大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (40596780)
麻生 憲一 奈良県立大学, 公私立大学の部局等, 教授 (90248633)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ダークツーリズム / 観光学 / 復興 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度の成果としては、論文の執筆と学会での発表はもちろんのことながら、研究に付随した関連の活動も大きく花開いた年であった。一般啓発雑誌としてのDark tourism Japan(ダークツーリズムジャパン)が創刊され、年度内に2冊をパブリッシュで来たことは社会的にも大きな意味を持つことになったと思う。この付随効果として、テレビ東京・TBSラジオ・TokyoFMなどの電波メディアでもダークツーリズムが特集されることになり、当該概念の浸透度は飛躍的に高まったと言えよう。 同時に、学術的な面でも本研究は大きな深化を見せた。具体的には、2016年3月に東京大学で開催された進化経済学会の第20回大会において、本研究チームを構成している、井出・麻生・高野の3名によって、ダークツーリズムに特化したシンポジウムを開催することが出来、当該研究テーマに新たなる地平を切り開くことが出来たのではないかと考えている。また、学術的な関連事項として、日本観光研究学会の研究分科会において、「近代化産業遺産とダークツーリズム」という研究テーマで助成が得られることとなり、当初は震災復興で始まった日本型ダークツーリズムに関する研究も、新たに大きな広がりを持つに至ったと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
予想よりも研究が順調に進んだ理由として、研究計画を立てた段階では未だ知名度の低かったダークツーリズムが、研究開始から時を経るにつれて、一般社会に浸透していったことが大きいのではないかと考えられる。従来、ダークツーリズムの取材をしようとした場合、ダークツーリズムとは何かを説明した上でないと対話が始まらなかったのであるが、現在ではダークツーリズムと言う言葉をなんとなく聞いたことがあるという人も増え、こちらの取材意図を伝えることが格段に容易になってきていることが実感できる。 また、観光学以外の隣接分野においても、ダークツーリズムの重要性が認知されるに連れて、学際的なコラボレーションが可能になってきている。アートキュレーションの専門家とのコラボレーションや、宗教学の専門書への研究代表者の寄稿などは、観光学を超越したレベルでのダークツーリズムの可能性に多くの知識人が期待を寄せていることの証左となっていると言っても過言ではないだろう。こうしたさまざまな後押しが、当該研究テーマを推し進める間接的な推進力として寄与したことが伺える。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は大きく研究が進んだ年であったが、同時に当該研究テーマのゴールと目指すべき具体的方向性が明確になってきた年でもあった。戦争や災害の後を巡る悲劇の旅をダークツーリズムと呼ぶヨーロッパ起源のこの概念は、日本では観光学が果たして観光学が扱うべき領域なのか否かという点で再考が迫られている状態であると言って良いであろう。 日本で観光といえば、楽しい営為を想像することが通例であり、ダークツーリズムのように胸に突き刺さるような経験を「観光」と言う言葉で扱うことは無理があるといえるかもしれない。それ故、研究代表者の体験においても、観光系の学会でダークツーリズムに関連した発表を行うと、多くの批判を浴びることがあった。一方、当該研究テーマを情報系、経済系、芸術系などの学会で発表すると、その意味内容や趣旨は広く支持を受けることになり、賛同者を増やすことが出来た。このように考える時、ダークツーリズムがもはや観光学の一分野を構成すると考えるのではなく、もっと別の学際的な存在なのではないかと確信するに至っている。研究の最終年度では、「別の学際的な存在」というものの内実を、より詳細に解き明かしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究者メンバーの一人が、大学で重要な役職についてしまい、予定通りの研究をすることができなかった。その部分については、他のメンバーが補っている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
観光学の研究である以上、現地の状況を踏まえた掘り下げを重視している。前年度に積み残した調査などを積極的に行い、計画的な研究費の執行を心がけていく所存である。
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