2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370011
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
佐藤 一郎 山梨大学, 総合研究部, 教授 (80178706)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | スピノザ「短論文」 / 「知性改善論」 / 観念 / 対象 / 真理 |
Outline of Annual Research Achievements |
オランダ語の写本により伝わっているスピノザの初期作品「短論文」について、次の研究を進めた。1.原典として扱われる手稿Aとそこから二次的に作られたとみられる手稿Bの校合、刊行された諸版の校合、諸国語訳の検討および諸注解の検討によるテクスト・クリティーク。2.テクスト・クリティークとも連関する哲学内容に関する諸注解の検討吟味、諸解釈の批判的整理。これらにより研究史を視野におさめながら、すでに出来上がっている「短論文」の訳稿への注解を完成させ、刊行予定の出版社に入稿した。 本研究は「短論文」の語彙研究により十七世紀における自国語での哲学術語形成の意義を明らかにすることも併せて目的としているので、オランダ語術語とラテン語彙との関係を調べるために、前年度に続いて同時代の辞典類を入手し、「短論文」の術語の検証を進めた。また上記2.の哲学内容に関する検討では十七世紀オランダの新スコラ学者ヘーレボールトほか先行の参照を要する学者、ユダヤ思想ではクレスカス、レオーネ・エブレオの著作との比較検討を行った。 「短論文」の注解を進める過程で、その哲学の要諦が認識の受動性という問題と観念のうちの対象というありかた(essentia objectiva)が含む肯定・否定に究極することを再確認し、本研究の展望と今後執筆される論文の主題を得ることができた。 イタリアのマチェラータ大学に出張し、スピノザ初期哲学作品の研究に関してフィリッポ・ミニーニ教授およびオメーロ・プロイエッティ准教授と研究討議を重ね、進めるべき研究の方向について示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「短論文」に関して実証的なテクスト・クリティークと先行研究の検証による注解を完成させることができた。 「短論文」における認識と真理について取りかかる論文の主題を見きわめることができた。 「知性改善論」の真理探究の方法についての吟味、それが未完のまま中断された理由の考察、「短論文」と合わせた両作品の年代決定のための仮説構築が課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
「知性改善論」と「短論文」それぞれの解題、両者の内容および著述時期の関係を論じた解説を執筆し、長年取り組んできたスピノザ「知性改善論・短論文」訳書の年度内刊行をめざす。 「短論文」における認識の受動性の説と「観念のうちの対象というありかた」をめぐる考察を主題とした論文の作成。 スピノザの初期哲学から「エチカ」への展開を主題とした論文をフランス語により執筆し、イタリアの研究者およびフランスの研究者からレビューを受けることをめざす。
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Causes of Carryover |
イタリア、オランダへの外国出張を計画していたが、「短論文」注解の完成が大詰めの段階を迎えたことと、他の業務により日程の都合がつかなかったため、オランダについては先送りとしたため。 入手を計画していた十七世紀の古資料のうち、ある程度の資料がオンデマンド版により安価で入手できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
刊行予定の訳書「知性改善論・短論文」の解説執筆のための資料調査および収集を目的として、オランダへの出張を行うほか、フランス語での論文執筆が進めばレビューを受けるためイタリアへの出張を計画する。 十七世紀古資料の収集を継続して進める。
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