2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370015
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中畑 正志 京都大学, 文学研究科, 教授 (60192671)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ウーシアー / 実体 / substantia / essentia / hypostasis / アリストテレス / ストア派 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、本研究の中核部分にあたる考察をすすめて次のような成果を得た。 1. 哲学の歴史においてウーシアーの概念にきわめて重要な位置を与えこの概念の受容に決定的な役割を果たした著作は、アリストテレスの『形而上学』である。この著作についてPrimavesiのA巻に関する写本研究を踏まえたテキストの再精査を含む、校訂、翻訳、注解の作業を進めた。この作業を通じて、前年度の本研究が示したウーシアーを「実体」と理解し訳すことの不適切性を、再確認するとともに、関連する諸概念「トデ・ティ」その他の関連概念についてもより明確な理解を得た。 2 しかしウーシアーの概念は、アリストテレス以後、中期ストア派において、アリストテレスとは根本的に異なる意味で理解されていることを見届けた。とりわけスト派の世界理解を支える受動原理は、「素材」(質料)とともに「無規定のウーシアー」とも呼ばれ、物体の「ある」ことのうち「~である」ではなく「~がある」こと、言い換えると物体的な存在の原理を表現することを見届けた。さらにこのような背景のもとでギリシア語ウーシアーがmateriaと訳されるという興味深い事例の意味を考察した。 4 他方でラテン語substantiaと、それの背景にあるギリシア語hypostasisのストア派における基本用法と、とりわけ「現われ」「概念」「言葉」などと対立する意味で使用さていることを確認した。 5 以上のようなストア派的なウーシアーの概念は、弁論家クウィンティリアヌスなどの著作において、言葉のうえではessentiaと訳されながらも、実質的にsubstantiaの概念とある仕方で連絡させられている事情を裏づけた。こうしてウーシアーの概念理解そのものの変容とそのラテン語における訳語substantiaとの関係について、従来より文献学的に精確で哲学的にも意義深い理解を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は「実体」substanceなどと訳されてきたウーシアーの概念の形成、継承、変容の過程を従来以上に明確に描き出すとともに、この過程に関わる存在をめぐるいくつかの思考のあり方を解明し、この概念にまつわる哲学的問題を明確にすることを試みる」ことにあったが、本年度の研究によってその受容と変容のプロセスの最も重要な部分が解明され、その後の歴史についても明確な展望が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
ここれまでの本研究の成果を踏まえて、さらにキリスト教の教父たちにおけるウーシアーおよびsubstantia, essentia, hypostasisなどの諸語の用法を観察し、ウーシアーをsubstanceとして理解する伝統の確立過程をさらに裏づける。さらにこの過程に関わる「~である」「~がある」「存在」「本質」などをめぐるいくつかの思考のあり方を解明し、この概念にまつわる哲学的問題を明確にすることを試みる。
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Causes of Carryover |
本研究に関連するもので、当初本年度内に出版が予定され発注してていた書(Baltussen, Aristotle's Heirs)が未刊のため購入できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
刊行が本年10月に変更されて公刊される予定なので、この購入にあてる。
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Research Products
(5 results)