2014 Fiscal Year Research-status Report
法と道徳の関係に関するカント派および現代の議論の研究
Project/Area Number |
26370016
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
舟場 保之 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (20379217)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 法と道徳の関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、法と道徳の関係をめぐる現代の哲学的議論の特徴について、カントおよびカント派の人たちがこの関係をどのように捉えていたかを参照することによって明らかにし、どのような議論にもっとも説得力があるかを示すことにある。そのため、2014年度は、アーペルとハーバーマスというドイツ現代哲学を代表する2人の議論を吟味し、両者の相違点はそれぞれのカント解釈にもとづくものであることを裏づけることを計画した。アーペルおよびハーバーマスの議論に関しては、第26回批判的社会理論研究会(東北大学)や第27回批判的社会理論研究会(大阪大学)に出席するほか、9月および3月に両者の規範理論に精通するA.ニーダーベルガー教授(デュースブルク‐エッセン大学)と集中的に研究会(東京、大阪)をもつことによって、予想通りの裏づけを得ることができた。また、並行してカント自身およびカント派(絶対的演繹派及び相対的演繹派)の議論を考察の対象とし、現代の論争に決着をつける一助とする計画を立てていたが、こちらについては、近代倫理学研究会(早稲田大学)およびカント研究会(法政大学)、さらに2月末に行われた「カントと人権論」をテーマとする国際会議(マインツ、ドイツ連邦共和国)に出席することによって、アクチュアルな論争につながる知見を収集することができた。3月には「カント実践哲学の可能性」と題して、倫理学、政治哲学、法論の見地から問題を考察する共同研究会を大阪大学において開催したが、ここでもカントおよびカント派が法および道徳をどのように捉えていたかがテーマ化され、さらにその把握の仕方が現代の規範理論にとってどのような意味をもちうるか、あるいはもちえないかが吟味され、当初の計画を十分に満たす成果が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するうえで、アーペルおよびハーバーマスの法と道徳の関係に関する見解を明確にし、両者の相違点がそれぞれのカント理解にもとづくことを裏づけておくことが必要であるが、2014年度中に、各種研究会に参加するとともにドイツ人研究者と意見交換を行うことで、この裏づけをとることができた。また、この考察と並行して、カントおよびカントと同時代のカント派たちがこれらの規範の関係をどのように捉えていたかを明らかにしておく必要があったが、こちらに関しても、道徳から法を導出する絶対的演繹派とその一種のヴァリエーションである相対的演繹派の見解を検討することにより、それぞれの議論の特徴と長所および短所の所在を突き止め、さらにカント自身の議論との異同に着目することによって、現代の議論へ連関させることが可能になった。したがって、研究は当初の目的を果たすうえで、おおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
カント派のうち、絶対的演繹派および相対的演繹派は法と道徳の間に導出関係を認める立場であったが、ハーバーマスと同様に、両者の間に導出関係を見ないカント派であるフォイエルバッハの見解と後期フィヒテの見解を、当初の予定通り、考察対象とする。両者の見解は非常に興味深いものの、代表的な先行研究においてさえ数ページがさかれているだけであり、研究目的を遂行するうえで、これらの議論を精査・吟味しておくことは必須である。アーペルおよびハーバーマスが教鞭を執っていたゲーテ大学(フランクフルト、ドイツ連邦共和国)には、現在、現代の議論にもカントの時代の議論にも精通するM.ヴィラシェク教授が在職しており、とりわけカントの法と道徳の関係に関する数々の論考を、現代およびカントの時代のパースペクティヴから展開中である。本研究を推進する方策として、ヴィラシェク教授との集中的な共同研究の実施が有効であると考えている。
|
Causes of Carryover |
2014年10月より2015年1月まで、ドイツ学術交流会(DAAD)のISAPプログラムにより、ハイデルベルク大学において教育活動を行った影響で、科研費を物品費として使用することが非常に難しくなった点が、次年度使用額が生じた主な理由である。また、研究会を開催した折に講師として招いたドイツ人研究者は、特任准教授として雇用することが可能となったため、人件費・謝金が発生せず、これらに対する予算を次年度使用とすることとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度においては、生じた次年度使用分を、研究目的遂行のうえで必要不可欠な関係図書の購入を中心に割り当てることを計画している。また、研究会に招く講師陣に対して、人件費・謝金の支出を予定している。
|