2016 Fiscal Year Research-status Report
現代物理学の知見を用いた時間に関する哲学的諸問題と時間の本質の解明
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26370021
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森田 邦久 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (80528208)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 量子力学 / 現在主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度までは量子力学を中心に、現代物理学の成果を考慮に入れて、哲学的に時間の考察を進めてきて一定の成果を挙げた。今年度は、より広く現代物理学の成果から時間論における哲学的諸問題にどのように光を当てられるかを中心に研究を進めた。形而上学的時間論における主要な立場のひとつに「過去や未来は存在せず、現在のみが存在する」というテーゼを中心にする「現在主義」と呼ばれる立場がある。これは私たちの時間様相に対する直感ともよく合う立場である。しかし、特殊相対性理論を考慮に入れると、この考えは維持できないのではないかという疑問が呈されていた。だが、特殊相対性理論は「特殊」という形容詞を冠している通りに、慣性系にしか適用できない理論である。それゆえ、特殊相対性理論が現在主義を否定したとしても、それだけでは、現代科学と現在主義が相入れないとは言えない。そこで、本研究ではまず、より広い適用範囲を持つ一般相対性理論や量子力学では、現在主義が支持できるかどうかを調べた。その結果、これらは、たとえば、共動座標系や量子もつれという概念を考慮に入れると、現在主義を積極的に擁護するわけではないが、少なくとも特殊相対性理論のように、否定するものではないことが明らかになった。さらに、一般相対性理論に部分的に量子力学を適用した量子重力理論ではどうかということも調べた。すると、その結果である多宇宙仮説でも現在主義を放棄する必要はないことがわかったが、もし宇宙が「無」から始まったとすると、結果として、初めから因果的に独立である無数の宇宙があり得るので、すべてに共通の「現在」が存在し得ず、それゆえ、現在主義が擁護できないことが明らかになった。この結果はAnnals of Japan Association for Philosophy of Scienceに投稿し、アクセプトされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように、量子力学を考慮した時間論に引き続き、現代宇宙論まで考慮して哲学的時間論に新たな光をあてることができた。また、研究代表者が物理学者や科学哲学者以外の哲学者も混えた時間論のシンポジウムを開催し、学際的な知見を得ることもできた。以上により、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、物理学者や研究代表者とは異なる分野の哲学者も含めて時間論のシンポジウムを開催したが、ここで得られた当たらな知見を改めて、これらの研究者たちと議論しながら深めていく。そのための手段として、論文集を作成予定であり、すでに出版社に企画を通した。また、上述のように、現在主義と現代物理学の関係は明らかになったが、時間論における他の哲学的諸問題、時間の形や時間の非対称性などについても、現代物理学の成果を基にしながら考察していく。
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Causes of Carryover |
端数
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
図書などに使用
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