2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370022
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
倉田 剛 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (30435119)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 社会存在論 / サール / 制度 / 人工物 / 抽象的対象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、J. サール『社会的現実の構築』(1995)の公刊以来、哲学者のみならず社会科学者たちも関心を寄せるようになった「社会存在論」(Social Ontology)の基礎を明らかにし、さらにそれを拡張することによって、サールらが十分な仕方で論じることのできなかった制度的・文化的対象を、より適切に解明することができる枠組みを探求することを目的とする。平成26年度の研究計画は、『社会的現実の構築』における基本的な道具立て、すなわち「機能の割り当て」、「集合的志向性」「構成的ルール」の妥当性を批判的に吟味し、それらを約十五年後に出版された『社会的世界の制作』(2010)と対照させることによって、社会存在論の発展を検証すると同時に、隣接する社会諸科学(経済学、政治学、社会学)におけるその位置づけを明確にすることであったが、その計画に従って、われわれは次の研究成果を公にした。
単著「サールの社会存在論について」(北海道哲学会[編]『哲学年報』60号、2015年2月15日:39-66頁)
この論文において、われわれは『社会的現実の構築』から『社会的世界の制作』に至る過程の中で、「構成的ルール」の不十分さが自覚され、それが「地位機能宣言」の一形式として捉え直されたことを丁寧に検証し、その背景にあるサールの「言語行為論」と「志向性理論」の重要性を指摘した。また、B. スミスが批判する「支えなしで立つY項」(free-standing Y term)の問題に、サールがどのように対応したのかに関しても細かな分析を行った。その上で、われわれはサール理論に一貫して見られる行動主義的な制度観、すなわち制度的対象を「様々な行為のパターン」に解消しようとする制度観を批判し、会社や国家といったアイテムを真正な「制度的対象」として捉える社会存在論のスケッチを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の計画は主に(1)「サールの社会存在論に関する考察」、(2)「社会存在論の背景」、(3)「社会存在論の余波」という三つの柱から成るものだった。(1)に関して、われわれは『社会的現実の構築』(1995)における構成的ルールが、『社会的世界の制作』(2010)において、より一般的な「地位機能宣言」に置き換えられた理由を詳細に検討し、いわゆる「支えなしで立つY項」の問題と無関係ではないことを論証した。(2)に関しては、「社会存在論」がそれ以前のサールの仕事に多くを負っていること、とりわけ彼の言語行為論(Searle, J. R., Speech Acts: An Essay in the Philosophy of Language, Cambridge University Press, 1969〔坂本百大・土屋俊訳『言語行為』勁草書房、1986年〕)および志向性理論(Searle, J. R., Intentionality: An Essay in the Philosophy of Mind, Cambridge University Press, 1983〔坂本百大監訳『志向性』誠信書房、1997年〕)は、ともに社会存在論を支える屋台骨であることを説得的に示した。また、それらの理論の原点(オースティンの言語行為論、フッサールの志向性理論など)にまで遡り、サールとは異なる仕方で社会存在論を捉え直す可能性も示唆した。(3)に関しては、おもに河野勝『制度』(社会科学の理論とモデル12、東京大学出版会、2002年)、盛山和夫『制度論の構図』(創文社、1995年)、岩井克人『会社はこれからどうなるのか』(平凡社ライブラリー、2009年)といった社会科学者たちの仕事の中にサールの理論を正確に位置づける試みを行った。 したがって当初の計画はおおむね遂行されたと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は4月24日にストックホルムで開催される北欧現象学会の大会で「現象学から社会存在論へ」(From Phenomenology to Socia Ontology)という題目で研究発表を行う予定である。その発表においてわれわれはサール理論を現代の形式存在論の枠組みの中で解釈することを試みる。また11月22日に行われる日本科学哲学会の大会にて、ワークショップ「人工物の哲学」を開催する予定である。そこでは社会的・制度的対象を含む人工物一般についての哲学的理論の可能性を模索する。
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Causes of Carryover |
平成26年度に予定していた海外出張が平成27年度に延期されたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
北欧現象学会(ストックホルム、平成27年4月23日~25日)で研究発表を行うため、その旅費として使用する。
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