2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370026
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
森岡 正博 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (80192780)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生命倫理 / 生命の哲学 / 人間の尊厳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、脳死における生命観を通して人間の生命について掘り下げ、また人間のいのちの3つの尊厳についてその全体像を考察した。 まず脳死をめぐる科学史を1980年代の第1次大統領レポートから2000年代の第2次大統領レポートに至るプロセスにおいて検証し、脳死概念が人間の身体の統合性として定義されたにもかかわらず、科学的知見の累積によってそれが崩壊し、それに代えて「呼吸への駆動」という新概念を案出しなければならないところまで追い込まれたことの意味を探った。そしてその論理は、長期脳死の身体に「成長への駆動」が見られるからそれは生きているとする帰結を導かざるを得ないことを指摘し、人間の生命における「成長」という概念の重大性を明るみに出すことに成功した。また、第2次大統領レポートの論理展開は、現代における気息の復権として思想史的に捉えられることも示した。 次に、私は以前に長期脳死の身体には「まるごと成長しまるごと死んでいく自然の権利」があると主張したが、それをカントの「尊厳」論の視点から解釈することによって、「人生の尊厳」および「身体の尊厳」という概念を導くことができ、カントの尊厳論を拡張することができることを論証した。さらに、それを将来世代の人間とのあいだの世代間倫理、および人間と自然環境のあいだのつながりへと拡張することによって「生命のつながりの尊厳」という概念が成立し得ることを示した。この方向性は本研究の申請時から構想されていたものであるが、それに明確な論理を与えて論文化することができた。 以上の研究に分析哲学的な厚みを持たせるため、英国オックスフォード大学で開催された国際応用哲学会に出席し、この分野の議論の最前線を調査した。その成果は、来年度の研究へと引き継がれることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画にあった生命倫理学を素材とした人間の尊厳の研究に着手し、論文を刊行することができた。またカントを中心とするドイツ哲学・ドイツ生命倫理学の達成を本格的に検討することができた。さらに英国で開催された国際学会に出席し、国際的な研究の展開への足がかりをつかむことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もこの方向性をさらに発展させる形で研究を遂行する。2年度目は、生命倫理学の素材に加え、「人生の意味」や「幸福」といった「生命の哲学」の根本概念を取り上げ、それが人間のいのちの尊厳にどのように接続するかを考察する予定である。また、人間と自然環境のあいだで成立する「生命のつながりの尊厳」を明瞭な概念にしていくために、ハンス・ヨーナスの環境哲学を再検討し、ヨーナスの言う「責任」と本研究の「尊厳」がどのように内的に関わっているのかを考察する予定である。 また、この年度においても海外の学会に出席し、研究成果を発表して研究交流を蓄積していこうと考えている。
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Causes of Carryover |
海外出張費が予定よりも少なくて済んだため、使用額に差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額を2年度目の海外出張費に合算して適切に支出する。
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Research Products
(6 results)