2015 Fiscal Year Research-status Report
プライバシーと自己決定権の限界:情報倫理学的知見と歴史的事例からの考察
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26370040
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Research Institution | Kibi International University |
Principal Investigator |
大谷 卓史 吉備国際大学, アニメーション文化学部, 准教授 (50389003)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プライバシー / 個人情報提供の同意 / アイデンティティ / 監視の不正さ / プライバシーの還元説と整合説 / モノのインターネット環境のプライバシー / ビッグデータとプライバシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、プライバシー概念および、プライバシーと自律とのかかわりに関して、情報倫理学的検討を行い4点の成果を得た。 第一に、プライバシー概念の解明のため個人アイデンティティとのかかわりに関して研究し、情報社会におけるプライバシー保護とは、単なる個人的な秘密の隠蔽ではなく、虚偽または事実にかかわらずネガティブな個人情報の流通を阻害するため、意識的にポジティブかつイメージを明晰に伝達しやすい個人情報を積極的に発信する行為でもあると示した。 第二に、従来監視の不正さを分析する際には、自律の侵害が理由としてあげられることが多かったものの、監視を秘密として監視対象を騙しているからというカント主義的な義務論の観点からの非難を除けば、監視そのものは不正とはいえず、むしろ監視されていると対象者に思わせることが自律を喪失させることを示した。これは欧米の先行研究で示されてきたが、わが国においては無視されてきた論点である。 第三に、プライバシーと密接に関連する重要な概念である自律的判断に関して、個人情報取得時の明示的同意の成立条件について、医療やヒトを対象とする研究で侵襲的行為や個人情報取得時等に必要とされるインフォームドコンセントを手掛かりに考察し、ビッグデータや「モノのインターネット」環境においては、必要十分な同意を得ることが困難になると示した。 以上3点は、電子情報通信学会技術と社会・倫理研究会および『みすず』『情報管理』の雑誌連載で成果の一部を発表した。 最後に、プライバシー概念の理解における整合説と還元説に関して、一昨年の応用哲学会での発表をもとに整理を行い、2000年代以降注目される文脈に着目する実用的なプライバシー管理を実現する二つの理論、すなわちNissenbaumの文脈的完全性、およびSoloveのプラグマティズム的アプローチについてその利点と課題を分析する紀要論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新学部への移行2年目のため、新しい授業の準備および学務等の理由により、昨年度は十分な研究時間を確保できなかったため、とくに、情報倫理学研究会開催および歴史的資料の収集と分析に時間を割くことができなかった。 情報倫理学研究会は、平成22年度から年数回開催しているもので、プライバシーに関する科研費補助金を受けてからは、とくにプライバシーおよび個人情報保護に関するテーマについて、哲学・倫理学および隣接分野の研究者を招集し、研究成果の発表および議論を行ってきた。当該年度は、この研究会の開催ができなかったことで、研究に関する議論が十分にできていない。その代り、情報倫理学およびその背景となる哲学・倫理学的文献の資料収集に努めた。 また、時間的制約のため、歴史的資料の収集と分析に遅れが出ている。個人の自由を尊重する自由主義は、私たちの生きる社会の前提であって、当人の幸福のみを理由として、立法や法適用、またはマスメディアによって、自己または同意した諸個人以外の誰にも危害を加えない個人の行為や生活を観察したり、介入したりすることは、自由主義の観点から禁止されるべきことと考えられている。しかし、その一方で、シートベルトやヘルメットの着用など個人の安全のために強制される安全保護手段が存在したり、通信の秘密を侵す可能性がある不正アクセスやマルウェアの対策も構想されている。これらの歴史的背景を分析することを意図しているものの、 山田卓生やFeinbergの先行研究の収集、および断片的な事例や文献の収集に留まっている。また、昨年度、社会保障・税番号制度(いわゆるマイナンバー制度)の発足があったことから、納税者番号制度の導入構想とその批判について、歴史的分析を行うため、資料収集を行ったものの、十分な分析がまだである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、今まで行ってきた情報倫理学的研究について、著書の一部等の形で一定の整理とまとめを行う一方で、歴史的事例の収集分析にさらに注力し、研究発表または論文として発表できるようにする。 雑誌『みすず』『情報管理』において、現代の情報倫理学にかかわる問題について、理論的考察および歴史的観点からの探究を行ってきた。この中で、本研究課題とかかわるテーマや問題も数多く扱ってきた。『みすず』の連載を著書としてまとめる中で、さらに本研究課題にかかわる問題を深く考察し、研究成果の一部として発表する予定である。また、来年度以降となるが、『情報管理』で発表してきた論文に関しても、著書等の形でまとめ、その中でも本研究成果の一部を発表できるよう計画を進める。 歴史的事例の収集分析に関しては、科学史・技術史研究で培ってきた研究手法を活用して、プライバシーと自律に係わる法規制や政策について資料の収集を進めるとともに、前出の山田やFeinbergの議論も検討し、考察をさらに進めていく。 情報倫理学研究会に関しては、本年度後半において、2-3回の開催を予定している。研究会の実施を通じて、本研究課題のまとめ・整理へと道筋をつけられるようにしたい。
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Research Products
(5 results)