2014 Fiscal Year Research-status Report
『解深密経』におけるツェルパ・テンパンマ両系統のテキスト比較分析
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26370052
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 弘二郎 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (90597428)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | テンパンマ写本 / 解深密経 / 校訂テキスト |
Outline of Annual Research Achievements |
『解深密経』チベット語訳テキストを作成するため、26年度では、まず、土台となるテキストの作成を目指した。当初の予定のうち、第5章~第7章のテキストについて全14種類の写本・版本を参照しつつ、各章の各段落ごとに東西両系統のチベット語訳を対照的に配置し、現段階で考えうる最良の「比較対照テキスト」の雛形に近づけることができた。テキストの作成にあたっては、各系統のチベット語訳を使用し、さらに、漢訳・和訳を参照して、TeXという組版ソフトを使用して、見開き2頁に1段落を原則に、見やすい配置を心がけた。これまで、比較対照が現実的でなかった本経のテキスト事情を鑑みても、格段に参照しやすい本経比較対照テキストの雛形が整った。 和訳と詳細な訳注についても第5章~第7章の大部分につけることができた。これまで顧みられることのなかった西系統のチベット語訳(4種類)を常に参照し、かつ、まったく別の系統に位置する敦煌写本、さらに漢訳などを、系統だてて参照しえる環境においては、これまで気づかれることのなかった本経解釈の新たな問題点も発見され、本経研究に有益な情報を提供している。 また、平成26年5月24日に、華東師範大学(中国・上海)における国際学会において「『解深密経』のチベット語訳テキストの作成について」と題し、その新たな作成意義について研究発表(英語)を行い、続けて、本内容について議論を交わした。文献学・宗教学・民俗学などの研究者が集う本学会での意見交換は、今後のテキスト作成において大変に有意味なものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
26年度において、本経における新しいタイプの対照テキストの雛形が、ほぼ完成した。テキストの作成にあたって、各系統のチベット語訳を各章の各段落ごとに対照的に掲載し、かつ各系統ごとの写本・版本の異読を分かりやすい形で、見開き2ページ内に収めるという煩雑な作業は、予想以上の困難を伴った。 今回、TeXという組版ツールを使用したが、これも習熟するのに時間を要する。現在もより良い環境を求めて進化中であるが、特殊なマクロを必要とするなど、常に技術的な壁が立ちはだかる。 現段階で26年度に予定していた範囲の6割程度の雛形しか完成していないが、その範囲のテキストの雛形の方向性がほぼ整った。この雛形がいったん完成してしまえば、次年度以降はスムーズに作業が進行することが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度に作成した本経テキストの雛形をもとに、各章の詳細な訳注研究をさらに細かく検討する。また、できるだけ多くの問題点を導き出し、なぜそのような相違点が認められるのか総合的に判断する。 校閲も同時進行する予定である。14にものぼる写本・版本の比較校閲には、相当な緻密さ、また専門性を要する。焦らず時間をかけて、納得のいく成果を出したい。
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Causes of Carryover |
本経テキストの雛形の作成およびその仕様の確定に予想以上に日数を要し、26年度に予定していた校閲作業が27年度にずれ込んだ。これを受けて、校閲作業の補助者に支出する予定だった26年度分の「人件費・謝金」を使用することがなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
基本的には、本来の使用目的通り、27年度に予定のずれ込んだ校閲作業への「謝金」として使用するつもりである。
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