2015 Fiscal Year Research-status Report
新ニヤーヤ学派における言語理論の伝統説形成についての研究
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26370054
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
和田 壽弘 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (00201260)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 新ニヤーヤ学派 / ラグナータ / 定動詞語尾 / 動詞語根 / ガンゲーシャ / マトゥラーナータ / 言語哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ラグナータ著『定動詞語尾論』の校訂テキストと英語訳を作成する作業に入った。校訂作業にはB本、C本、K本、S本、S2本、T本を用いるが、底本はS本である。翻訳作業のために主に参照した注釈書は、ラーマバドラ(16世紀後半)の『アーキヤータ・ヴァーダ・ヴヤーキャー』(定動詞語尾論釈、『ヴヤーキャー』と略称)と、インドの伝統で重要視されるマトゥラーナータの『アーキャータ・ヴァーダ・ラハスヤ』(定動詞語尾論解明、『ラハスヤ』と略称)である。『定動詞語尾論』の全体を11部分に分割し、第1~4部分まで両作業を完了し、学術誌に投稿した。 ラグナータは当該テキスト(第8部分)の中で動詞語根の意味も議論し、これはガンゲーシャの『タットヴァ・チンター・マニ』(真理考究宝)の中の「動詞語根章」の議論を前提としている。この章の英訳と分析を昨年度に海外の学術誌に投稿したので、今年度はこの章の分析を日本語で発表すべく準備を進めた。 ラグナータが前提とする語と表示対象(意味)の関係についての原則は、表示対象の集合の全要素に共通して存在する普遍が1つのみである、というものである。彼の『定動詞語尾論』では、この原則が保持されるように議論が進行する。しかし、この原則が保持できない場合には、どのように対応するかは明らかにされていなし。これを明らかにするために、彼の別の独立の書である『パダールタ・タットヴァ・ニルーパナ』(範疇真実述解)の中で、原因性(karanataa)と生成力(zakti)に関する議論に注目した。この両概念は、伝統的には後者が前者に還元されるが、彼はこの還元を承認しない。不承認の根拠として、彼が「原因」という語の適用根拠に注目していることを突き止め、適用根拠が普遍でない場合には、独立の範疇を導入していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ラグナータの当該テキストで言及される「新」と「古」という語の使用方が、彼の時代を基準にしているために、この語が使用される対象の説と新ニヤーヤ学派説との関係が単純ではない。例えば、彼が言う「古説」には新ニヤーヤ学の体系を確立したガンゲーシャの説が含まれることが判明した。ところが、翻訳上これに「古説」として言及すると、研究者がそれを新ニヤーヤ学が発生する以前の説として理解する虞が多分にある。これを避けるには、テキストの全体を視野に収めて言及の仕方を決定しなければならない。この作業に相当時間が取られて、テキスト校訂と英語訳の作業が思うに任せなかった。 ガンゲーシャの「動詞語根章」の英訳・分析を昨年度に海外の学術誌に投稿したが、学術誌編集者の都合により、この論文の出版が平成28年度に回された。この予期しなかった遅れによって、ラグナータの当該テキストの翻訳・分析作業が遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
ラグナータの『定動詞語尾論』の第5~11部分のテキスト校訂と英語翻訳を進める。校訂作業にはB本、C本、K本、S本、S2本、T本を用いるが、底本はS本である。翻訳作業のために主に参照した注釈書は、ラーマバドラ(16世紀後半)の『アーキャータ・ヴァーダ・ヴヤーキャー』(定動詞語尾論釈、『ヴヤーキャー』と略称)と、インドの伝統で重要視されるマトゥラーナータの『アーキャータ・ヴァーダ・ラハスヤ』(定動詞語尾論解明、『ラハスヤ』と略称)である。 『定動詞語尾論』の第8部分に登場するラグナータの動詞語根の意味論は、ガンゲーシャの『動詞語根章』の議論を前提としている。そのため、ガンゲーシャのこのテキストの分析結果を国内の学会の学術大会で発表して、ラグナータのテキストの第8部分に登場する動詞語根の意味論との比較ができるよう準備する。日本語でそのようなことを行う目的は、テキストの中で使用される多数の術語の日本語訳の妥当性を学界に問い、併せて新ニヤーヤ学派の言語哲学に関する日本国内での研究を喚起することである。
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Causes of Carryover |
平成27年6月にバンコクで開催された世界サンスクリット会議で研究発表をすることになっていたが、腰痛のために急遽取りやめた。これにより、予定していた旅費に未使用が出た。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、謝金で雇用する補佐員を1名を増員する。「次年度使用額」を、増員した補佐員の謝金に充てる予定である。
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