2016 Fiscal Year Research-status Report
インド伝統医学書『チャラカ・サンヒター』とその註釈書に関する文献学的研究
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26370060
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
山下 勤 京都学園大学, 経済経営学部, 教授 (00319435)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 医学史 / 伝統医学 / サンスクリット |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は4年間の研究期間の3年目であった。前年度までと同様、写本などの文献資料収集といった基本的な調査と、これまでに収集した資料の分析・解読などを主に行った。概要は以下の通りである。 (1)資料収集:昨年度に引き続き、インド伝統医学文献『チャラカ・サンヒター』の現存する10種近くの註釈文献のうち、最古のものと考えられる註釈書、ジャッジャタ作『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』を主な研究対象とすることとし、その文献学的研究のための資料を収集し、内容を確認した。また、『チャラカ・サンヒター』からの引用が多く認められるインド伝統医学書『アシュターンガ・フリダヤ・サンヒター』と『アシュターンガ・サングラハ』の写本資料の調査とそのコピーの収集をインド国内にて行った。 (2)資料分析:上記(1)で得られた『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』第6編第2章第1節について、『チャラカ・サンヒター』本文と、『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』註釈を対照しながら読解し、内容を詳細に分析した。また当該部分の註釈文中に引用されているヴェーダ文献や叙事詩など医学文献以外の文献について調査を行った。 (3)『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』の『チャラカ・サンヒター』第6編第2章第1節への註釈テキストの校訂と翻訳:上記(2)に基づいて、残存する『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』の冒頭部分のテキスト校訂と英語へ翻訳を進め、ほぼ完成した。また『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』以外の3種の註釈文献の当該部分を解読し、各註釈文献の比較研究を行った。 (4)上記の文献学的研究を補完するための参考資料を得ることを目的として、インド、ケーララ州において、現代のインド伝統医学の臨床治療の実態に関する聞き取り調査など、資料収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
インド伝統医学文献『チャラカ・サンヒター』とその現存最古の註釈文献であるジャッジャタ作『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』については、これまでにも研究代表者(山下)と研究協力者(デンマーク、コペンハーゲン大学のケネス G. ジスク(Kenneth G. Zysk)教授との間で先行して文献の調査と研究を行っていたが、前年度までのインド現地調査によって新たな写本資料が入手でき、その内容の分析と解読にやや時間がかかっていること、また今年度から新たに、ジャッジャタ作『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』だけでなく、年代の異なった他の3人の註釈者(チャクラパーニダッタ、ガンガーダラ、ヨーギーンドラナータセーナ)による『チャラカ・サンヒター』への3種の註釈文献の解読・分析・翻訳も行い、研究の範囲を広げることにしたため、当初の計画よりも本研究の進捗にはやや遅れが生じ、平成28年度中には論文などの形で研究成果を発表することは困難であった。しかし、研究範囲を広げたことによって、インド伝統医学文献の成立史の解明に新たな視点を得ることができた。平成29年度には本研究は、ほぼ当初の予定通りに進捗することが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度(平成29年度)もインド伝統医学文献『チャラカ・サンヒター』とその註釈文献『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』の写本資料を用いた解読研究およびテキスト校訂と英語への翻訳を、本研究の研究協力者であるデンマーク・コペンハーゲン大学のケネス G. ジスク(Kenneth G. Zysk)教授の協力も得ながら進める予定である。また、『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』だけでなく、刊本(およびそのコピー)を新たに入手した、年代の異なる3人の註釈者(チャクラパーニダッタ、ガンガーダラ、ヨーギーンドラナータセーナ)による『チャラカ・サンヒター』への3種の註釈文献の解読・分析・翻訳も継続して行うこととする。これによって、さらに幅広い観点からの『チャラカ・サンヒター』の内容分析が期待できる。 また、本研究では『チャラカ・サンヒター』と『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』の文献学的研究以外にも、7世紀頃の医学者で、『ニランタラパダ・ヴィヤーキャー』の作者ジャッジャタの師匠とされるヴァーグバタの2大医学書『アシュターンガ・フリダヤ・サンヒター』と『アシュターンガ・サングラハ』の写本資料を用いた両医学書成立史の研究の準備的作業を進めることとする。 さらに次年度は、インド・グジャラート州、ケーララ州、ウッタラプラデーシュ州などの大学図書館や資料館での写本資料の調査を進め、写本のコピーや写真などを可及的多く集め、これらの資料を解読分析し、前述した7世紀頃の医学者ヴァーグバタの著作を中心にインド伝統医学文献の歴史的発展過程について研究を進めることとする。 これらの研究成果は、当該分野を代表する学術誌であるElectronic Journal of Indian Medicine(オランダ)などにおいて順次発表していく予定である。
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Research Products
(2 results)