2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370075
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 弘夫 東北大学, 文学研究科, 教授 (30125570)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 幽霊 / 死者 / 浄土 / 墓 / 救済 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は日本の古代・中世を主たる対象として、不幸な死者に関連する資料とその分析に必要な参考文献・図書・報告書を収集した。また、朝熊山(三重県)、葛川明王院(滋賀県)、善光寺(長野県)、元興寺(奈良県)、立石寺(山形県)などにおいて実地調査を行い、文献史料に加え、死者の世界を構成する経塚、木像・絵像、石塔などを博捜して、当該フィールドの宗教空間をトータルに解明し、歴史的・思想的なコンテクストに位置づけることを目指した。 本研究は直接的には江戸期の幽霊の特質を読み解こうとするものであるが、幽霊だけを取り上げるのではなく、「不幸な死者」を取り巻く思想空間全体と歴史的文脈のなかで幽霊の意味を探るという方法を追求するところに特色がある。かかる視点からの考察の結果、最終的に宗教的な救済によって幕を閉じる中世の幽霊譚に対して、近世のそれの特色は恨みを抱いた相手に対する世俗的な意味での復讐の完遂であり、そこには宗教的な意味での救済が存在しないことを明らかにすることができた。さらにそうした相違が生まれる背景として、中世人が共有していた異次元他界とそこにいる救済者に対するリアリティが消失することによって、近世では死者が理想世界に飛び立つことなく、いつまでもこの世に留まるという認識が共有されるに至った点を指摘した。 救済者に対する信頼が低下することによって、近世社会では死者をケアする主役が仏から親族・縁者に移行し、その結果、中世の場合に比べて、死者と人間の関係性が大きく変化することになったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従来、江戸期の幽霊について文学、美術史、演劇・芸能などの個別分野からの研究の蓄積は膨大な量に上るが、その特質を他の時代との対比においてトータルに論じた研究はほとんどなかった。本年度の研究においては、中世との対比において、まだ仮説の域を出ないものの、近世的な幽霊の特色をほぼ明らかにすることができた。 これは研究史上、画期的な成果であり、今後日本列島における他の時代との比較を行う上で、また列島を超えた他地域との比較研究を進める上で、基本的な視点を確立できたことを意味するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き当初の研究計画に沿って、調査と研究を推進していく。資料の解読と現地調査、先行研究の検討を通じて、本年度に打ち立てた見通しと仮説の有効性の検証を進める。その上で、長期的なスパンと広いコンテクストのなかで「不幸な死者」の問題を考察しようとする本研究の課題を、従来の研究方法と照らし合わせながら、方法論一般の問題として深化し、研究協力者とともに、海外の諸地域との比較文化論的研究の道を追究していくことを目指す。
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Causes of Carryover |
本年度、急遽文学研究科長に就任したため、校務と重なって、予定していた調査と資料収集をすべて行うことはできなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究そのものは順調に進展しており、次年度使用額は、昨年できなかった調査などを次年度に行うことによって、すべて使用できる見通しである。
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