2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370079
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長尾 伸一 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (30207980)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ニュートン主義 / 科学史 / 社会科学史 / 世界の複数性 / 人間の科学 / 社会思想史 |
Outline of Annual Research Achievements |
以下の近代思想史の展望を切り開くことができた。 (1) 科学の言語によって生成される「現実」の地平では、人間はすぐれて社会的動物として現れ、宗教、権力、貨幣のような、人間の想像力が作り出す大文字の「主体」に基づく「文明」の装置が不可視的になる。この「科学化された眼差し」は、知的世界の空間的拡大に基づく天文学的複数性論による宇宙からの視線、あるいは地理的拡大に基づく未開の眼差し、異文化からの眼差しとの同質の社会像をもたらした。この科学の言語が保証した「現実性」が人間の自然性ととらえられ、それを拠点として、個人の自然理性や欲求や社会的感情に基づいて文明全体の再構成を展望する18世紀の政治、社会改革論が可能になった。 (2) 科学の記号の意義を対自然行為から対人間行為へ変え、科学の方法によって「人間の自然」の記号体系を建設すれば、記号体系は対他者、対自己的行為を指示することになり、それらに関する普遍的妥当性を持つ命題が得られることになる。そこから科学の方法による「道徳哲学の刷新」という展望が開かれ、人間に関する科学的知が人間の道徳的進歩をもたらすという、「啓蒙のプロジェクト」が成り立った。こうして18世紀には、科学化された眼差しの地平に現れた自然的な社会の在り方を科学の方法によって理論化していくことで、普遍妥当的な倫理学と政策学を建設することが試みられ、「人間」と「社会」の科学が誕生した。だがこれらは 1科学が進化という人間の真の起源を解明する以前に行われたこと2科学化された眼差しにとって、人間のコミュニケーション能力と想像力に基礎を置く文明の装置が不可視だったことから、巨大な社会の法則性の根拠を明らかにすることができず、1自然法則のような自然の秩序と2人間の自発性に基づく道徳的、社会的秩序の二分法と、1自然的な社会と2現実の社会という、規範と現実の分裂を生み出すこととなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一昨年度末に研究途上で複数世界論に関する単著をまとめることにより、研究課題に関する形而上学的文脈を発見することができ、当該年度および最終年度における社会科学史、社会思想史敵分析の基礎が強固なものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の点を解明するとともに、全体の総括を行う。 (5)文明の災厄の縮減 (6)進化と文明の装置 (5)については、電子文献データ・ベースを利用しつつ、ルソーやフランス革命等を参照しつつ、ギボン、ケイムズ、ロバートスン、スミスなどの18世紀の文明論の射程を検討することで明らかにする。 (6)については、ヘーゲルからフォイエルバッハ、シュティルナー、マルクスに至るヘーゲル派の展開および19世紀思想史と社会理論史を通じて示す。
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Causes of Carryover |
本務校での業務多忙のため、当該年度に企画していた海外調査が一回のみしか実行できなかった。ただし研究内容については本務校における貴重書コレクションや電子データベースを用いた研究を先行して行ったため、支障はなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度において繰り延べた海外調査を実施するとともに、書籍の収集計画を拡張して行う。
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