2015 Fiscal Year Research-status Report
18世紀ドイツ啓蒙におけるカント歴史哲学の知識社会学的研究
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26370082
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
西田 雅弘 下関市立大学, 経済学部, 教授 (10218167)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ドイツ啓蒙 / カント倫理学 / カント歴史哲学 / 宗教論出版 / 知識社会学 / M.シェーラー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カント歴史哲学の論考を手掛かりにしつつ、カント倫理学の全体を知識社会学的な方法によって再検証するという大きな構想を持っている。「啓蒙の時代」における「道徳性」の意義を解明した上で、そのようなエートスがカント文献にどのように反映しているのかを、緻密な文献内在的精査によって明らかにする。 2年目の平成27年度は、まず、前年度原稿執筆にとどまっていた論文を公表した。「カント世界市民主義研究のための序論―「欲望の体系」と「幸福であるに値すること」―」(『下関市立大学論集』第59巻第1号、pp.75-91、2015年5月)である。ヘーゲルと対照しつつ、カントでは、幸福の追求に対して「幸福であるに値すること」、すなわち「道徳性」が先行しなければならないという「道徳性の優位」の基本発想があることを明らかにした。これについて、日本カント協会(2015年11月14日、清泉女子大学)で学会報告を行った。 次に、平成27年度の実施計画である「啓蒙の時代」の解明に関して、『宗教論』の出版をめぐるカント晩年の筆禍事件に着目した。この事件の実状を書簡の記述を中心に跡付けし、「カント晩年の筆禍事件―カント実践哲学の知識社会学的研究の手がかりとして―」(『下関市立大学論集』第59巻第3号、pp.103-115、2016年1月)を公表した。書簡の精査からは、フリードリヒ・ヴィルヘルム二世の治世における反啓蒙的社会情勢とともに、そのような状況に置かれた啓蒙の哲学者カントの社会的注目度および反啓蒙に対するカントの確信犯的な「気概」を読み取ることができた。常に「良心的に、法に適うように」振る舞おうとするカントの姿勢は、倫理学的言説と当該社会とのかかわりを如実に物語っている。この論考では、さらに研究方法としてのシェーラー知識社会学の概略および日本のカント研究における類似の先行研究にも部分的に言及した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度の実施計画は、年度内に成果物として公表するまでに至らなかったが、平成27年度前半にこれを公表し、合わせて学会発表を行った。これによって前年度の実施計画が進捗した。 「啓蒙の時代」の様相を解明するという平成27年度の実施計画は、カント晩年の筆禍事件について書簡を通して具体的に跡付けることによって試みられ、成果物として公表されたが、学会発表までには至らなかった。また、本研究の特徴の1つである知識社会学的アプローチについては、M.シェーラーに基づいてその方法論の概略を明らかにして上記成果物に掲載することができた。同様のアプローチによる日本のカント研究の先行事例の系譜を整理する点については、文献の通読にとどまり、取りまとめて成果物として公表するまでには至らなかった。初年度からの繰り越しの影響によって計画の実施がやや遅れているという進捗状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は本研究の実施計画の最終年度である。平成26年度の成果を次年度の平成27年度に成果物として公表したことにともなって、平成27年度には、成果物としての論文を公表することはできたものの、その内容を学会発表するまでには至らなかった。この学会発表が次年度に繰り越される。また、知識社会学的なアプローチによる日本のカント研究の先行事例についても、成果物として公表するまでには至らなかった。これも次年度に繰り越される。 したがって、平成28年度には、これらの前年度からの繰り越しを実施するとともに、研究代表者のこれまでの個別論文の再検討によって実施計画に掲げたカント文献の内在的な検証の全体を集約し、本研究のまとめをする。研究成果報告書の冊子を作成する。 平成28年度は個別論文の再検討が中心であるが、かなり以前の論文も含まれているので、もしテキストデータが残っていないものなどがある場合には、データ化のための作業等が必要となり、期間延長の申請も視野に入れておく。
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Causes of Carryover |
発表をともなう学会出張が1件だけだったので、旅費の使用が少額にとどまったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度予算と合わせて、研究物品の購入、学会発表の旅費、報告書の印刷等に充当する。
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