2016 Fiscal Year Research-status Report
18世紀ドイツ啓蒙におけるカント歴史哲学の知識社会学的研究
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26370082
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
西田 雅弘 下関市立大学, 経済学部, 教授 (10218167)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ啓蒙 / カント倫理学 / カント歴史哲学 / カント教育学 / カント市民社会論 / 知識社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、前年度に公表した「カント晩年の筆禍事件―カント実践哲学の知識社会学的研究の手がかりとして―」(『下関市立大学論集』第59巻第3号、pp.103-115、2016年1月)について、広島哲学会(2016年11月5日、広島大学)で学会報告を行った。これは、カントの思想を「啓蒙の時代」に定位して知識社会学的に解明するという「研究の目的」の下で、『宗教論』の出版に関する書簡を手掛かりに、カントの思想と社会情勢との相互作用を明らかにしている。 次に、「カントの教育概念―歴史哲学の視角から―」(『下関市立大学創立60周年記念論文集』、pp.143-152、2017年3月)を公表し、日本カント協会(2016年11月12日、福島大学)で学会発表を行った。これは、本研究のもう1つの課題である文献内在的な検証のために、唯一残っていた文献研究の成果物である。カントの教育概念の区分が、「開化」「市民化」「道徳化」という歴史哲学の重層的構造に重なっていることを明らかにしている。 年度後半には、研究代表者の20本の論文を体系的に編成して「カントの市民社会論の研究」というタイトルの冊子(A4版220頁)を製本した。しかし、まだ納得のいく精緻な仕上がりとは言えず、「中間まとめ」にとどまった。また、課題として繰り越していた日本のカント研究における類似の先行研究については、「研究の研究」よりもカント文献の精査に注力することを重視して概要だけにとどめることにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の課題は、Ⅰ.「啓蒙の時代」のエートスを解明すること、Ⅱ.カントの思想における時代のエートスの反映を文献内在的に検証すること、の2つである。平成27年度にⅠ.の課題、平成28年度にⅡ.の課題に取り組み、最終的に成果報告書を作成する計画である。 「啓蒙の時代」のエートスを解明するという平成27年度の課題は、カント晩年の筆禍事件について書簡を通して具体的に跡づけることによって試みられ、論文として公表されたが、学会発表は平成28年度に繰り越して実施された。これによって、知識社会学的なアプローチに関する課題について、本研究としては一応完了することにした。 平成28年度の課題である文献内在的な検証の体系的なとりまとめにあたって、研究代表者のこれまでの個別論文のうち、『教育学』に関する論文のテキストデータが見当たらないことが判明し、OCRによって文字データ化する追加の作業を行った。それとともに当該文献について内容を再吟味し、新たな論文として書き直した。これによって文献内在的検証に必要な個別論文は一応すべてそろえることができた。 最後の課題である成果報告書の作成について、体系的なとりまとめに予想以上の手間と時間がかかることが判明したが、それでも現段階の一応の成果物として「カント市民社会論の研究(中間まとめ)」を作成した。この「中間まとめ」を再度精査し、より精緻なものへと成果報告書の完成度を高めるという課題が残った。そのため、補助事業期間延長の申請を行い、延長が承認された。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間延長によって最終年度が1年延長した。残された課題は、成果報告書の最終版の作成である。「中間まとめ」を再度精査し、より精緻なものへと完成度を高める。その際、研究代表者単独の作業に加えて、さらに「中間まとめ」を一部のカント研究者に提示して意見や批判を受ける。そのために研究打合せの出張をする。 年度半ばには成果報告書の最終版を完成させて冊子化する。これによって、当該科研費助成事業は完了することになるが、さらにこの成果物を、平成30年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の学術図書刊行に応募する。採択の場合、学術図書として刊行される。
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Causes of Carryover |
学会発表のための学会出張旅費を執行したが、成果報告書を廉価な「中間まとめ」にとどめたのに加えて、物品費の執行がなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
成果報告書の最終版の印刷・製本費に充当するほか、「中間まとめ」について研究打合せを行う出張旅費に充当する。
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