2014 Fiscal Year Research-status Report
近代への過渡期の民衆道徳における「孝」の展開と都市住民の実態
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26370084
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Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
早川 雅子 目白大学, 社会学部, 教授 (70212305)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 孝 / 恩 / 天地の子 / 貝原益軒 / 民衆道徳 / 人別書上 / 人別帳データベース / 江戸都市住民 |
Outline of Annual Research Achievements |
[1]資料の調査収集:九州大学付属中央図書館で、『篤信編輯著述目録』『玩古目録』を基礎資料として、貝原益軒関連資料を調査・収集した。 [2]孝の展開過程の研究:人間に孝行を迫る「報恩」の論理の展開を研究した。観点は、①報恩を義務化する論理的根拠、②孝行における主体性・報恩の意義である。1700年代初頭、儒家・中江藤樹と貝原益軒は、報恩を義務化する論理的根拠として、(1) 父母による分娩と養育、(2)天地による万物を生成との二つの型を定立した。両者ともに、近世的コスモロジーを背景に、人間を「天地の子」と位置づけ、「人間の生、即ち孝行」と論定する。孝行を主体的自律的にするのは、「天地の子」意識である。人間は「天地の子」意識の形成を通して、天地の全体的構造を知り天地の構成員たる自己を自覚する。その結果、孝行は天地の営みに参画する主体的行為になる。1700年中期の民間知識層は、儒家の論理を折衷しつつも、孝行における主体性の維持に勉める。1800年前後、民衆における孝に至り、儒家の論理は展開する。報恩の根拠は、分娩と養育に収斂し、血縁や身体の連続性を根拠にした親子の一体感が強調される。天地の構成員たる自覚を根拠にした孝行の主体的性格は希薄になる。 [3]人別帳データベースの分析:麹町十二丁目の人別帳データベースを分析した。同町は、甲州街道に面する商用地である一方、住民世帯は「其日稼ぎ」の都市下層が半数を占める。その理由は、同町の位置にある。町内は、南・北・西の3ブロックに分かれ、西ブロックが最大である。南・北ブロックと西ブロックの西方は、甲州街道に面して常設店舗が並び、地借・家持階層が住む。西ブロックの北方・南方・東方は、街道から奥まった場所に位置し、都市下層民の密集居住地である。一連の人別帳分析結果から、町内に多様な社会的階層が雑居する事は、幕末江戸の町に共通すると推定される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
[1]資料の調査収集:福岡県立図書館の竹田文庫の調査が完了していない点。2014年3月に調査を予定していたが、3月は書庫整理のため利用することができなかった。益軒の教訓本の出版状況を調査するためには、竹田文庫所蔵の『益軒書簡』は必須資料であるが、未入手・未調査である。 [2]孝の展開過程の研究:都市部で出版された教訓書・育児書の分析が、完了していない点。2014年度は、1700代末から文化文政年間(1830年頃)までの期間の資料分析を計画していた。『江戸本屋出版記録』・『近世出版広告集成』・『往来物解題辞典』等を活用し、都市部で出版された教訓書・育児書・教訓科往来物関連資料データベースを作成、資料の整理収集を行っているものの、1700年代末までしか完了していない。 民衆思想の資料分析がやや遅れている理由は、儒家における孝の思想の研究の対象が拡大している点が大きい。当初の計画では、儒家の孝は、貝原益軒の思想を中心に研究する計画であった。しかし、研究を進めていく内に、中江藤樹の思想の影響が大きいことが判明し、藤樹の孝の思想研究に時間を費やした。 [3]人別帳データベースの分析・管理:人別帳データベースのWeb 公開の前提として、データベース入力値の最終チェックをした結果、四谷伝馬町新一丁目データベースにおいて、入力項目のユニーク番号に重複があることが判明。データを修正している。
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Strategy for Future Research Activity |
[1]資料の調査収集:(1)福岡県立図書館竹田文庫の調査を行い、益軒書簡に関連する資料を収集する。(2)益軒の教訓本と中江藤樹関連図書の出版状況を調査する。出版年は1800年前後を中心とし、収集資料を絞り込む。(3)都市部で出版された教訓書・育児書・教訓科往来物関連資料の調査収集を継続する。 [2]孝の展開過程の研究:1800年代前半の資料の分析を行う。(1)益軒教訓書及び中江藤樹の解説本、儒学思想に基づく教訓書を中心資料にする。益軒の生成論で抽出したキーワードの読み替えや解釈の変化を分析する。昨年度の研究成果と照合し、儒学的な存在論や道徳論の受容状況や変遷を考察する。 (2)益軒教訓書の解説本・中江藤樹の解説本、教訓書、教訓科往来物を中心資料にして、恩の観念の変容を解明する。恩や報恩を説く文脈をたどり、報恩の義務が導き出される論理を考察する。(3)親子間の情愛の意義・内容の展開に着目する。育児書・教訓科往来物において、親子の情愛や血縁の意義が説かれる頻度、情愛に対する評価とその展開を検討して、親の慈愛と報恩義務化の論理との関係などを考察する。以上の研究成果を総合して、孝道徳の展開という観点から儒学思想の民衆化の過程を明らかにする。 [3]人別帳データベース分析・管理:(1)渋谷駅周辺地域三町(渋谷宮益町3本、渋谷道玄坂町1本、渋谷東福寺門前1本)の分析をする。分析方法は、四谷地域のデータ分析を踏襲する。すなわち、世帯復元データの作成②家族形態の分析③居住階層、職業、家族形態から分析した住民世帯の実態④住民世帯の実態と孝の内容との照合である。 (2)人別帳データベースのWeb公開準備を本格化する。Microsoft社製Excel形式ファイルに変換しWeb公開をする。研究成果の公開も併せて行う。Web公開とデータベース管理には、所属機関の情報処理担当助手の協力を要請する。
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Causes of Carryover |
[1]福岡県立図書館・竹田家文庫の調査を計画通り進行することができなかった。2014年度の計画では、2015年3月に一週間の予定で、同文庫所蔵の資料の調査・収集を計画していた。しかし、計画進行中に、書庫整理中のため3月は閉鎖することが判明。同文庫所蔵資料のマイクロフィルム現像代・コピー・製本代として計上していた、物品費・その他を使用することができなかった。 [2]人別帳データベースWeb公開が順調に進まなかった。人別帳データベースチェックの段階で、入力項目に重複データがあることが判明。データの修正には人別帳解釈を要し、申請者(データベース作成者)しかできないため、修正に時間を費やした。人別帳データベース作成・管理用に計上していた、人件費・謝金を使用することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
[1]福岡県立図書館・竹田家文庫調査と収集資料のコピー・製本代として使用する。2015年度前半期に一週間の予定で、同文庫を調査し、資料の調査・収集を行う。同文庫所蔵資料のマイクロフィルム現像代・コピー・製本代として、物品費・その他の経費を充てる計画である。 [2]人別帳データベースWeb公開・管理のための人件費として使用する。人別帳データベースチェック修正が完了次第、Web公開の準備に入る。人別帳データベースは、ファイルメーカー社製FileMaker Proで作成しているが、Web公開では汎用性の高いMicrosoft社製Excelを利用する。Excelファイルの設計・ファイル変換、Webデザイン、Web管理は、情報処理の専門家に依頼する。
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Research Products
(1 results)