2014 Fiscal Year Research-status Report
南洋群島における沖縄の人々による音楽芸能の展開と現地住民との交流の実態
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26370101
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
小西 潤子 沖縄県立芸術大学, 音楽学部, 教授 (70332690)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 旧南洋群島 / パラオ / 行進踊り / 移民 / 沖縄 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1)戦前南洋群島で展開された沖縄の音楽芸能の実態、2)沖縄および現地住民による双方の音楽芸能に対する意識、3)移民引き揚げとともに沖縄各地に伝播した「行進踊り」の全貌を明らかにすることを目的とする。 今年度は、当該年代に発行された新聞記事、南洋群島帰還者の手記、先行文献のなかで沖縄の音楽芸能に関係する記述等の収集調査を沖縄県立図書館、国立国会図書館で実施した。沖縄県立図書館では、『名護市史研究資料第23集移民・出稼関係新聞記事目録』や同館所蔵の比嘉春潮文庫を手がかりに、資料収集を始めた。国立国会図書館では、移民史研究の最新情報を多く得ることができた。 沖縄県内の南洋群島帰還者に対する調査としては、沖縄パラオ友の会月例会や慰霊祭後の南洋群島帰還者会、パラオやサイパン帰還者を個別訪問して聞き取りを行った。そして、過去の現地墓参や同窓会に際しての芸能上演を含むDVDなどの録音・録画資料を収集し、サイパンからの帰還者が保有していたパラシュートで制作された三線について情報を得ることができた。 旧南洋群島における現地調査は、戦後も引き続き日本の流行歌を取り入れているパラオに絞って実施した。そして、沖縄系パラオ人を中心とする日本語話者より、戦前の沖縄芸能の実態について情報収集した。その結果、戦前から家族内でも沖縄文化が継承されなかったこと、現在に至る沖縄との文化交流に際しても沖縄の古典音楽や民謡は用いられず、両者が共有する日本の流行歌を介するという実態を把握できた。 沖縄に普及した行進踊りの資料については、恩納村で収録された余興の映像を新たに入手することができた。また、南洋群島帰還者会のメンバーの歌唱により、小笠原には伝わっていないが沖縄各地に伝わった踊り歌があることがわかってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新聞記事、南洋群島帰還者の手記における音楽芸能に関する記述の収集は、『名護市史研究資料第23集移民・出稼関係新聞記事目録』や比嘉春潮文庫など、先行事例を手がかりに順調に進めている。しかし、オリジナルの新聞記事等の確認をする必要がある。 沖縄および現地の人々による音楽芸能への意識については、聞き取り情報に加えてDVDなどの録音・録画資料を得られたことによって、大きく躍進した。すなわち、戦前南洋群島で流行した行進踊りやその踊り歌が直接の継承者から、幼少時に南洋で過ごした世代に継承された経緯、さらに彼らが現地の行進踊りとその踊り歌を新たに学習し、現地との交流に用いていたことがわかった。ただし、収集した録音・録画資料は断続的なものなので、経年変化を追うためには引き続きの資料及び情報の収集整理が必要である。 さらに、当時の沖縄の人々の三線に対する思いを知るうえで、貴重な情報を得ることができた。すなわち、南洋帰還者による商業用CDの制作経緯、戦後ススッペ収容所で制作されたパラシュート三線の現物閲覧とその制作過程に関する情報である。また、これらをもとに、口頭発表や論文執筆の成果を上げることができた。なお、沖縄とパラオでの調査を同時期に実施したことで、双方の聞き取り情報を集約することができ、同じ場を共有した沖縄とパラオの人々がそれぞれどのような意識を抱いていたかがある程度把握できた。今後は、追加情報の収集と既存の情報をさらに整理する必要がある。 新たに入手した恩納村の行進踊りの映像は、村落に持ち帰られた行進踊りの演目や表現を把握できる資料である。この映像に関する追調査やほかの市町村における資料収集はまだ行っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
戦前南洋における沖縄の音楽芸能に関する文献資料は、オリジナルの新聞記事等の確認をしながら進める必要がある。しかし、予測されてはいたものの、資料そのものの絶対量が少ないことがわかってきた。これについては、料亭や商店の広告など音楽芸能をビジネスとした側の情報も文献資料を補うものとなりうることから、これらも視野に入れて収集整理したい。また、南洋移民に関する先行研究についても、情報整理をする必要がある。 沖縄および現地の人々による音楽芸能への意識については、引き続き関係者への聞き取り情報に加えて、DVDなどの録音・録画資料を得るなどして経年変化を追うための資料及び情報の収集整理をしたい。また、旧南洋群島における調査地については、パラオに加えてサイパンでの調査も実施したい。サイパンでは世代交代が著しいため、日本語話者を得ることが極めて困難なことが予測される。この点については、カロリニアン・ポップス研究者から事前に情報提供を受けることにより、現在継承されている日本語歌謡の実態に関する調査の可能性を探っていきたい。 沖縄県内に流布する行進踊りの調査は、まだ十分に行ってきたとはいえない。しかしながら、断片的に継承者の手がかりを得ている地域(名護市など)やその可能性が示唆される地域(糸満市)もある。こうした予備的な情報をもとに、調査協力者を探しながら各地に散在する資料や情報収集を積極的に行っていくことで比較対象を増やしたい。
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Causes of Carryover |
物品購入費(備品)が予算よりも低く抑えられたため、65,495円の使用残高が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は、65,495円の使用残高を加算して備品購入費にあてたい。
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Research Products
(11 results)