2015 Fiscal Year Research-status Report
南洋群島における沖縄の人々による音楽芸能の展開と現地住民との交流の実態
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26370101
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
小西 潤子 沖縄県立芸術大学, 音楽学部, 教授 (70332690)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 南洋群島 / 沖縄移民 / 音楽芸能 / サウンドスケープ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、前年度に続き沖縄県内において文献資料収集と情報整理、南洋群島帰還者からの聞き取り調査を行った。また、旧南洋群島においては、8月にサイパン、平成28年3月にトラック、パラオで、日本統治時代の沖縄移民とその音楽芸能に関わる情報収集を行った。特にサイパンの調査においては、沖縄からの農業移民が市街地から離れた開拓地に居住していたため現地の人々と接触することが少なかったこと、一方漁業関係者は1930年代までに形成されたガラパン街で販売活動をしていたことなど、エリアによる接触の違いが鮮明になった。また、このように直接接触する機会が限られていた現地の人々と沖縄移民とでは、お互いの音楽芸能を理解するよりは、「異文化の音」として認識していたであろうことに思い至った。 そこで、戦前の地図(再現)を手にしてガラパン街を歩き回り、沖縄の音楽芸能の拠点となった劇場や現地のカロリニアンが行進踊りを行っていた海岸近く小屋跡地などが、現在の地図上でどこにあたるのかを確認した。そして、当時の記録資料『サイパンの全貌』(大嶺ほか1941)、「南蔦」(1936年の個人の日誌)、『海の果ての祖国』(野村1987)などに見られる音の描写を現在の風景と重ね合わせることにした。その結果、かつてガラパン街で聞かれた音は全く残存しておらず、またそれを想起させるものは、わずかな遺跡しか見当たらなかった。こうしたことから、帰還者の一人である永山氏が戦前のサイパンの音と人々の思いを綴った《サイパン語り》が、「記憶の底から蘇ったサイパンの音」としての意味をもつことを再確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦前多くの沖縄移民がいたにもかかわらず、旧南洋群島の音楽芸能に沖縄の痕跡が残っていないことから発した研究である。しかしながら、資料の乏しさや当時を知る世代の人々が高齢化してインタビュー情報も多くは取りにくいという点から、どのように進めたらよいかという難しさはある。しかし、フィールドワークによって現地を歩きまわる中で、サウンドスケープという切り口を見出すことができた。これにより、今までにはなかった側面から当時の沖縄移民の音楽芸能の実態を描ける可能性が出てきた。
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Strategy for Future Research Activity |
文献資料、聞き取り調査に加えて、サウンドスケープという切り口からも旧南洋群島地域での調査を行い、それぞれの場所で沖縄の音楽芸能がどのように聞かれ、受けとめられていたのかを明らかにしたい。また、当時の南洋における沖縄の音楽芸能の担い手の多くが「じゅり」であったという証言もあるので、「じゅり」の音楽芸能の実態についても併せて調査研究していきたい。
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Causes of Carryover |
収集できた文献資料が想定したよりも少なかったため、その整理に計画していた謝金に余裕がでたこと、3月末の旅費の見積もりが出るのに時間がかかったため、ある程度の余裕を残しておいたことなどにより、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は5月にグアムで太平洋芸術祭が開催され、旧南洋群島地域から多くの音楽芸能グループが参加する。その旅費や消耗品は申請額からの減額もあって計上できなかったため、この次年度使用額をあてることにする。
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Research Products
(4 results)