2016 Fiscal Year Research-status Report
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26370102
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
高瀬 澄子 沖縄県立芸術大学, 音楽学部, 准教授 (60304565)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日本音楽史 / 楽律学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28(2016)年度は、主に恩徳院の律管「年次」について、(1)現存状況の調査、(2)文献の収集と読解を行った。 「年次」とは、『楽家録』(安倍季尚撰、1690)に記された律管の名称である。応永19年(1412)、詮芸と豊原敦秋によって製作されたという。現在の所在は不明であるが、『雅楽及声明図書展覧目録』(1916)記載の律管の一つが「年次」であった可能性も指摘されている(林謙三1973「恩徳院の律管をめぐって」)。 (1)については、石川県立美術館所蔵「蒔絵脇息図十二律箱」(伝五十嵐道甫、17世紀)に、律管、四穴、文書が附属していることを確認した。『楽家録』によれば、「年次」は西八條の遍昭心院の所蔵品であったが、慶長(1596-1615)の頃、寺の修理代として加賀藩主の前田利常に進呈され、それ以来、加賀にあるという。「蒔絵脇息図十二律箱」と「年次」とは何らかの関わりがあった可能性もあり、今後の調査が必要である。 (2)については、林謙三「恩徳院の律管をめぐって」(1973)に基づき、「年次」に関わると推測される一次資料を収集した。そのうち、谷秦山(1663-1718)『秦山集』『新蘆面命』は、林の解釈とは異なり、『楽家録』の記述と矛盾しないことを確認した。『恩徳院御撰』(写本1冊、高野山大学図書館所蔵)、『年次本論』(写本1冊、静嘉堂文庫所蔵)は、音律に関する興味深い資料ではあったが、「年次」については林の先行研究以上の情報は得られなかった。 また、本年度は、昨年度の研究成果を「『楽書要録』の新たな伝本―京都大学文学研究科図書館所蔵『弁音声』について―」として『東洋音楽研究』第81号に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は、恩徳院の律管を中心として調査を進める予定であった。しかし、「年次」についてはある程度の進展があったが、その他の律管についてはほとんど進展がなかった。現存が確認された律管についても、実地調査を行うには至らなかった。 理由としては、当初、調査を想定していたのは「年次」以外の律管であり、「年次」については調査の可能性を想定していなかったため、状況の把握に時間を要したことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、研究の最終年度は律管の音高の測定を行う予定であった。しかし、その前提となる律管の現存状況の調査が思うように進んでいない。そのため、引き続き、現存状況の調査、および関連する文献の収集と読解を行いたい。特に、日本の律管として重要である恩徳院の律管についての調査は必須であると考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、律管の実地調査を行っていないからである。資料の収集は行ったが、あまり研究費を使用しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現存が見込まれる律管について、できる限り実地調査を行いたい。また、調査結果の発表にも力を入れたいと考えている。
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