2014 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ロシア音楽再考:社会主義経験の意義を問いなおすために
Project/Area Number |
26370103
|
Research Institution | Sapporo Otani University |
Principal Investigator |
千葉 潤 札幌大谷大学, 芸術学部, 准教授 (80433473)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅津 紀雄 工学院大学, 工学部, 講師 (20323462)
森 泰彦 くらしき作陽大学, 音楽学部, 准教授 (90191006)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 冷戦 / 雪どけ / ソ連 / 音楽 / バレエ / プロコフィエフ / グバイドゥーリナ / ロシア |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は既存の一次史料と二次文献の収集・整理に努めながら、新たな視点の可能性を模索した。1. 国外に出た作曲家の書簡、日記の検証に当たっては、千葉と梅津が作曲家プロコフィエフの検討を行い、特に梅津はロシア文化における自叙伝の意義の観点から検討を行った。2. 中田は、帝政ロシア末期からソヴィエトにおけるオペラ演目の変遷を確認すべく、3件の作業に着手した。1)1890~1917年のモスクワとサンクト・ペテルブルグの諸劇場における演目状況、2)1923年9月~35年6月のボリショイ劇場の演目、3)ジェルジンスキーのオペラ《静かなドン》と《開かれた処女地》の分析と再考。3. 森はチャイコーフスキイ《くるみ割り人形》、ストラヴィーンスキイ《春の祭典》を対象に、革命以後のディアスポラによってロシア人ダンサーが西側に与えた影響、ソ連時代のバレエが果たしたプロパガンダとしての機能などを分析し、バレエとバレエ音楽の研究による西洋音楽史の補完の可能性を提起した。4.梅津はロシア国立文学芸術文書館において、スターリン賞・レーニン賞の選考委員会の議事録を調査し、それらの性格の相違を明らかにすると共に、民族共和国の作曲家への配慮に示されるようなイデオロギー以外の要因に注意を払う必要性を再確認した。5. 千葉は、今後の研究への準備としてモスクワに研究調査旅行を行い、ソ連音楽についての最新の資料収集、この分野の第1人者ガリーナ・グリゴーリエヴァ教授へのインタビュー調査を実施した。またマルチメディアオペラ「影の向こう側へ」のロシア初演に立ち会い、現在のロシア音楽界の状況を実感できた。6. 各メンバーで協力しつつ、いわゆる全体主義文化論の検証のため、ナチスとソ連の共通性と差異を精査する目的で既存の「第三帝国音楽」の収集に努めた。7. 森田は研究会に参加し、各メンバーの研究調査と分析に助言を与えた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既存の文献の収集と分析はおおむね順調に進んでいる。特に、今年度はプロコフィエフとグバイドゥーリナについて、近年の資料研究の成果をメンバー全員で検討しながら、その意義についての認識を共有することができた。さらに、梅津は、社会主義経験の意義を問い直す方法として、近年、ロシア・ソ連時代の自叙伝に着目する新しい研究アプローチからプロコフィエフの日記研究の余地を提起した。また、森は西洋音楽史で軽視されてきたバレエ音楽の研究を通じて、ソ連音楽を多角的にとらえ直す可能性と、西洋音楽史の組み換えの可能性とを提起した。以上のように、20世紀ロシア音楽の意義を再考するうえで、新しい研究アプローチと研究課題が見出されたことから言えば、部分的には分析が進んでいない点があるとはいえ、総合すれば本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては、平成27年度も前年度と同様、研究発表会と研究調査旅行を実施し、その成果報告を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
研究者の都合により、研究調査の日程が予定よりも短期間になったため、旅費の一部が残ったこと。および、今年度の研究発表会の実施が一回に留まったこと。また、購入を希望していた研究資料の入手が困難だったため、今年度の購入を中止したこと。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の購入予定と合わせて、昨年度に購入予定だった研究資料を購入する。また研究発表会の実施回数を2回以上実施する。
|