2016 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ロシア音楽再考:社会主義経験の意義を問いなおすために
Project/Area Number |
26370103
|
Research Institution | Sapporo Otani University |
Principal Investigator |
千葉 潤 札幌大谷大学, 芸術学部, 教授 (80433473)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅津 紀雄 工学院大学, 工学部, 講師 (20323462)
森 泰彦 くらしき作陽大学, 音楽学部, 准教授 (90191006)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ロシア音楽 / ソ連前衛音楽 / 後期ソ連 / 教養主義国家 / ソ連演奏家 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、研究メンバーの分担テーマにおける事例研究をさらに進めながら、本科研の最終年度に向けて、各テーマの研究意義についての検討を進めた。1.千葉は、ソ連前衛音楽を代表するデニーソフとグバイドゥーリナの作品から、前衛的な技法と伝統音楽との融合を図った作品を分析し、前衛主義の克服へと導いた各作曲家の音楽観との関連性を考察した。2.梅津は、ソ連の教養主義国家としての性格と芸術政策との関係、後期ソ連における芸術統制の実情、ストラヴィンスキー訪ソの背景などについて分析した。3.森は、米ソ文化交流協定とその展開の全体像把握に関連して英ソ関係を取り上げ、エディンバラとオールドバラ両音楽祭におけるソ連の演奏家や作曲家の訪英、またベンジャミン・ブリテンにおける20世紀ソ連音楽の受容を分析した。4.中田は、後期ソヴィエトにおける交響曲のあり様の一例として、ショスタコーヴィチの交響曲第12番の特徴的な動機法を分析し、社会主義体制に合致した献呈情報や標題性を宣伝する一方、私的なメッセージを込めた作品に連なる音楽語法の延長線上で構想されていた様子を確認した。5.森田は、長年にわたってロシア音楽研究を続けてきた実績に基づきながら、日ソや米ソ間の音楽文化交流の歴史を知る当事者の一人として、各自の研究に貴重な助言を与えた。これらの内容は、2度開催された研究会で発表され、討議され、それぞれ他のメンバーの批判的な意見を聴取して、今後の研究方法の修正の基礎とした。特に、第2回目の研究会では、ユルチャクの後期ソ連論について、翻訳者である半谷史郎氏を講師に招き、講演してもらい、後期ソ連の文化状況についての理解を深めた。また、メンバーのうち、森、梅津、中田は、国際学会ISM Tokyoに参加して、ソ連音楽研究の最新状況の把握に努めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各自の分担テーマについてそれぞれが事例研究を蓄積するなかで、次第に各テーマの研究意義が明確になってきたことで、20世紀ロシア音楽を通して社会主義経験の意義を問うという本研究の目的が、具体的かつ多面的な実像を結びつつある。1.千葉は、ソ連前衛音楽を代表する主要作曲家の作曲様式の解明だけでなく、前衛主義を克服する手段としての伝統と前衛の統合の過程の解明へと研究アプローチが次第に変化してきた。ソ連前衛音楽の代表的作曲家であるシニートケ、デニーソフ、グバイドゥーリナの作曲様式を検討したことで、ソ連前衛音楽の全容把握に近づいてきた。2.梅津はソ連における芸術文化の位置づけについて教養主義国家という視点から考察し、音楽政策の流れの再構築を進めている。3.森は、米ソ文化交流協定の音楽面についての研究書をほぼ読了し、エディンバラ、オールドバラ両音楽祭についての参考文献を探索中である。またブリテンにおけるロシア音楽の受容についての研究書を精読中である。4.中田は、初年度からの継続作業であるソ連時代のオペラ上演状況調査においては、2015年度の現地調査で撮影してきた画像資料数千点のデータ入力を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、前年度と同様に2回の研究会、および2名の海外研究旅行を実施する。また本科研の最終年度として各自の分担テーマについて一定の総括を行い報告書にまとめ公表する。各自の分担テーマについての推進方策は以下のとおりである。1.千葉は、まだ取り上げていない主要作曲家に関して、引き続き基礎資料の読解と作品分析の成果を蓄積しながら、ソ連前衛音楽の様式変遷過程の実態把握を進める。2.梅津は、最新研究に基づいて、スターリン時代の芸術政策とそれに対する音楽家自身の関与について考察するとともに、後期ソ連における文化交流と芸術政策との関係について、森と協力しながら、分析を進める。3.森は、エディンバラ、オールドバラ両音楽祭におけるソ連音楽家の招聘がいかなる理由からどんな手続きを経て実行されたのか、またその演奏や作品がどのように受容されたのか、現地調査を含めて概観を試みる予定である。4.中田は、分担テーマであるソ連時代のオペラ上演状況調査のデータ入力作業を進め、上演状況に関する一定の概観を行う。5.日本におけるロシア音楽受容とその研究の当事者であり証言者である森田のロング・インタビューを行い、日本における20世紀ロシア音楽受容の歴史の記録を残したい。
|
Causes of Carryover |
研究分担者の海外研究旅行が一身上の都合により未実施に終わったため。および、最終年度の研究報告書出版に向けて、研究会の会場を東京1か所に絞り、旅費交通費を節約したため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の海外研究旅行を2名に配分する。また、本科研の研究報告書を出版する。
|