2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370107
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
西村 清和 國學院大學, 文学部, 教授 (50108114)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 感情 / トポグラフィー / 命題的態度 / 知覚 / 概念主義 / 合理性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、一方で感性に関わるヨーロッパの現象学の成果と、他方で英米の分析哲学の近年の成果とが、逆向きのアプローチと見えながら実は「感情=情態性」の構造論という一点に収斂するものであるとの認識のもと、新たに感情の原理論を構築する事にある。情態性の原理構造が確定される事で伝統的〈美学=感性学〉における美的快や美的感情をめぐる様々なアポリア――「快」の実質、「混合感情」、美的義務論、美的な「意志の弱さ」、「美的自己欺瞞」、「美的功利主義」、「共感や同情の美学」――に新たな解決が期待される。 初年度は準備作業として、まず(1)プラトンやアリストテレス、またゼノンやセネカらストア派の古代感情論、近代のデカルトやヒューム、20 世紀に入ってシェーラーやハイデガー、サルトル、ボルノウ、そしてシュミッツやベーメらの感情論や知覚論など、西洋における伝統的な感性論の歴史的変化を、感情の原理論、感情と理性、感情と知覚、感情と信念・認識、感情と道徳、感情と快、感情と芸術、美的感情と美的快といった論点に注目して記述・分析した。 ついで(2)伝統的な感情論とは逆のアプローチとして、信念・知識・欲求といった命題的態度をモデルとして感情をも命題的態度のひとつとして扱うことで、感情の合理性やその実践活動との関係を論じようとする近年の分析哲学における「感情の哲学」の成果と問題点を批判的に検討し、本研究のむかうべき方向を確定した。命題的態度論は感情の合理性を論じるには有力な方法ではあるが、感情の主体(一人称)と命題の判断主体(三人称)とが異なるために、感情に関わる一人称特権の問題をうまく扱えず、これを克服するには、感情を知覚とのアナロジーで論じる方向がある点で有力であることを突き止めた。その成果は論文「感情のトポグラフィー」(『國學院雑誌』第115巻第6号、平成26年6月)としてまとめられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、平成26年度の研究計画としては、とくに分析哲学における命題的態度論の有効性を見きわめ、本研究のむかうべき方向を確定することを目標としていたが、現時点で、命題的態度論の問題点を明らかにした上で(すでにあげた論文において)、あらたに感情と知覚との類似と差違を明確にすることで、心のホーリズムにおける感情の位置づけ(トポグラフィー)を確定するところまでいたっている。端的にいえば、判断や信念の三人称的客観性では感情の一人称性は論じることはできず、それゆえむしろ知覚との類比が有効ではあるが、この点に関するこれまでの先行研究の問題点は、これら両者の差異をどうとらえるかにある。本研究は目下、この点を明らかにするところまでいたっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、心のホーリズムの枠組みのなかで、「知覚」に支えられた「信念」や「知識」そして「欲求」と「感情」とのちがいは何か、またそれらと「感情」がどのような関係に立つのかについて見きわめることを目標とする。そして分析的なアプローチで明らかとなった「感情」の位置づけをもとに、現象学的な「情態性」の概念をあらたな視点で展開することで、分析系の感情の哲学でも、またヨーロッパの感情の現象学でも至りえなかった、めざされるべき情態性の構造論を展開する端緒を確定する。この作業のためには、ひきつづき分析系の命題的態度や「感情の哲学」に関する資料・文献の体系的な調査・収集は欠かせない。7月には「国際18世紀学会」に出席し、また国内の学会・研究集会等にも参加して、国内外の他の研究者との意見交換を行い、これを研究成果に活かすことにしている。
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Causes of Carryover |
研究遂行のために必須の文献資料が外国のものであり、これを入手するには、注文してから一ヶ月以上は必要で、会計年度の締め切りに間に合わなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度分の請求額とあわせた額を、(1)ひきつづき、研究に必須の文献資料の調達、(2)海外出張の旅費、(4)国内の学会等への参加のための旅費、(3)研究補助のための謝金、(4)コンピュータ関連の物品及び消耗品の購入、に当てる予定である。
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