2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370107
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
西村 清和 國學院大學, 文学部, 教授 (50108114)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 感情 / 命題的態度 / 知覚 / 合理性 / 情態性 / 共感 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、一方で感性に関わるヨーロッパの現象学の成果と、他方で英米の分析哲学の近年の成果とが、逆向きのアプローチと見えながら実は「感情=情態性」の構造論という一点に収斂するものであるとの認識のもと、新たに感情の原理論を構築する事をめざす。情態性の原理構造が確定される事で伝統的〈美学=感性学〉における美的快や美的感情をめぐる様々なアポリア――「快」の実質、「混合感情」、美的義務論、美的な「意志の弱さ」、「美的自己欺瞞」、「美的功利主義」、「共感や同情の美学」――に新たな解決が期待される。 今年度は、昨年度に検討した感情と知覚のアナロジーをさらにくわしく検討し、心のホーリズムの枠組みのなかで、「知覚」に支えられた「信念」や「知識」そして「欲求」と「感情」とのちがいは何か、またそれらと「感情」がどのような関係に立つのかについて見きわめた。そして分析的なアプローチで明らかとなった「感情」の位置づけをもとに、現象学的な「情態性」の概念を、デヴィッド・ルイスの「自己についての(de se)態度」とつなげることで、分析系の感情の哲学でも、またヨーロッパの感情の現象学でも至りえなかった、めざされるべき情態性の構造論の概略を構築した。またこの構造論を踏まえて、道徳や行為と感情、倫理学と美学が交錯する領域における諸問題――不合理な感情と理性による統御といった伝統的な議論、「意志の弱さ」、「自己欺瞞」、フィクションにおける共感や同情の美学と共感や同情の倫理学との交叉など――に対するあたらしいアプローチを試みた。またそのための歴史的考察を深めるべく、8月にベルギー・ロッテルダムでおこなわれた国際18世紀学会にも参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、今年度は心のホーリズムの枠組みのなかで、「知覚」に支えられた「信念」や「知識」そして「欲求」と「感情」とのちがいは何か、またそれらと「感情」がどのような関係に立つのかについて見きわめたうえで、分析系の感情の哲学でも、またヨーロッパの感情の現象学でも至りえなかった、めざされるべき情態性の構造論を展望することを目標としていたが、じっさいには、それを踏まえて、道徳や行為と感情、倫理学と美学が交錯する領域における諸問題――不合理な感情と理性による統御といった伝統的な議論、「意志の弱さ」、「自己欺瞞」、フィクションにおける共感や同情の美学と共感や同情の倫理学との交叉など――に対するあたらしいアプローチの試みにまでいたった。
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Strategy for Future Research Activity |
のこされた一年で、昨年度に確認した情態性の構造論にもとづいて、〈美学=感性学〉の立場から、美的快や美的感情にまつわる個々の具体的な諸問題、またそれをめぐるさまざまなアポリアやパラドックスに関する研究をあらためて体系的に再検討する。これによって、芸術と感情のかかわりのみならず、道徳や行為と感情、倫理学と美学が交錯する領域における諸問題を体系的に論じ、これによって、感性という次元における人間の世界と自己に対するかかわりを原理的に問うという意味で、まさに「感性学」としての「美学」のひとつの可能性を拓くことが可能となるはずである。またその成果は、著作のかたちでまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
研究遂行のために必須の文献資料か外国のものであり、これを入手するには、注文してから一ヶ月以上は必要で、会計年度の締め切りに間に合わなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の請求額と合わせた額を、(1)ひきつづき、研究に必須の参考文献の調達、(2)国内の学会等への参加のための旅費、(3)研究補助のための謝金、(4)コンピュータ関連の物品および消耗品の購入、に当てる予定である。
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