2015 Fiscal Year Research-status Report
メーイ(1519-94)の芸術理論:音楽理論とアリストテレース『詩学』解釈の融合
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26370109
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
津上 英輔 成城大学, 文芸学部, 教授 (80197657)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | メーイ / アリストテレース / 『詩学』 / 『古代旋法論』 |
Outline of Annual Research Achievements |
イタリアの人文学者メーイ(Girolamo Mei, 1519-94)の手紙28番,fol. 209rに見られる諸芸術の分類表につき,そこに表明された思想を芸術理論の歴史に定位し,また彼の劇音楽論全体におけるその位置を見定めるのが,本研究の目的であった. 平成27年度前半の研究では,『古代旋法論』第2,3巻における彼のプトレマイオス・トノス理論の解釈に集中した.その結果,プトレマイオスのテシス・デュナミス理論の不理解が,メーイ独特の2音刻みの旋法体系という結果を生んだこと,しかしこの誤解こそが,歌の音高差がそれの表現する情動の差を生むとする彼の古代音楽観を導いたこと,この2点が明らかになった.全面音楽劇であったと彼の考える古代悲劇が強い情動を観者に喚起できたことを,彼はこのように音楽理論的に説明した.歴史的に見れば,これはアリストテレース『詩学』に触発された劇詩論が史上初めて数理的音楽理論と出会ったことを意味する. 平成27年度後半の研究では,これまで手をつけていなかったメーイの未完の手稿Trattato di musicaに取り組んだ.まずヴァティカン本を電子ファイルに書き取り,主要箇所の読解を行なった.その結果,メーイは声の音高調節法として,語りに特徴的な「連続的」と歌に特徴的な「音程的」との間の「中間的」なものを,古代悲劇における俳優の発声法と結び付けて考えたことが生涯一度もなかったことが判明した.ここから,ペーリが1600年の『エウリディーチェ』で劇詩を歌うために採用した中間的発声法の着想が,メーイに由来するものでなかったことが確かめられたとともに,古代悲劇が「歌われた」とメーイが言うとき,それがレチタティーヴォのようなかたちではなく,通常の意味で歌うことを意味しているという私の理解が補強された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メーイの思想を,数理的音楽理論とアリストテレース『詩学』に触発された16世紀の劇詩論の融合としてとらえる本研究は,平成27年度中に公表した論文「メーイのプトレマイオス旋法論解釈」および口頭発表「音楽理論から音楽美学へ:メーイのプトレマイオス旋法論解釈と古代音楽像」を以て,所期の目的に近づきつつある.なお,後者の口頭発表を論文化したものが『美学』に掲載されることが決定している.
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Strategy for Future Research Activity |
本年7月にソウルで開催される国際美学会で,メーイの諸芸術分類表について発表するのに向けて,彼がアリストテレース『詩学』第1章の詩作手段論をいかに踏まえているかを明らかにする.その際,アリストテレースの用語rhythmosの理解が鍵となるであろう. 次に,2017年3月に東京で開催される国際音楽学会で,メーイにおける音楽理論の伝統とアリストテレース『詩学』解釈の伝統との交差について発表する.そのため,メーイと同時代の理論家との比較にも目を配る.
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Causes of Carryover |
どこまでが科研として認められるかが明確でなく,費用計上に慎重を期したため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
必要に応じ,適宜使用する.
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Research Products
(2 results)