2014 Fiscal Year Research-status Report
寮歌の形成過程とその展開に関する研究ー変容する音楽文化としての再検討
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26370110
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Research Institution | Tokyo College of Music |
Principal Investigator |
下道 郁子 東京音楽大学, 音楽学部, 准教授 (50421110)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 寮歌 / ドイツ学生歌 / 旧制高校 / 集団歌唱 / 共同体の歌 / 音楽文化受容 / 音楽教育史 / 音楽文化資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は寮歌の形成過程とその変容を明らかにすることである。平成26年度は1)寮歌形成時のモデルとなったと考えられるドイツ学生歌に関する情報と資料収集、2)国内で開催されている寮歌祭の取材、3)終戦前後の一高と寮歌の関わり、4)ナンバースクールの中で唯一未調査であった六高の調査の着手、5)寮歌の他の歌への影響という5点について研究を進めた。 1)国内の研究者からの情報や資料提供により、ドイツ学生歌は学生組合(Studentenverbindung)における伝統儀式の一つとして行われ、現在でもゲッティンゲンを中心に伝承されていることがわかった。これにより海外調査の範囲の特定が進んだ。またワークショップ「国民音楽の比較研究と地域情報学」(2014/9/27 京都大学稲盛財団記念館)に参加、明治期に旧制高校で歌われたドイツ国歌に関する情報や研究者との交流の機会を得た。2)一高玉杯会主催の春・秋の寮歌祭(2014/4/5・11/1東大駒場)、全国旧制高校寮歌祭(2014/10/13 ベルサール新宿)に参加、取材した。減少していく高齢の卒業生に対し、中高年層の参加者が増加し、寮歌の伝承における世代交代が新たな観点として浮上した。3)刊行が遅れている本の原稿修正の為に、戦時下と平時下の一高寮歌を再調査し比較検討した。『文化としての日本のうた』(東洋館出版社)の一部として「社会を歌った一高寮歌」という題目で公表される予定である。4)岡山県立岡山朝日高等学校内にある六高記念館にて資料収集を行った。5)「嗚呼玉杯」の作詞者澤村胡夷が制定した台湾警察歌と「嗚呼玉杯」の作曲者楠正一の出身地秋田の県民歌に関して調査をし、学会で口頭発表を行い、原稿にもまとめた。また第19回夏期教育セミナー(2014/8/30-31 旧制高校記念館)に参加、寮歌と旧制中学校校歌との関わりを考える機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
寮歌を国際的な視点から再評価するという可能性に、着実に近づいた一年であり、研究テーマの更新と研究者ネットワークの構築という点では大いに進展があった。また、寮歌との関連が考えられる共同体歌にも研究を広げた実りある一年であった。しかし、当初の計画では平成26年度の中心は、寮歌の形成に影響を与えたと推測される欧米の国歌や愛国歌、ドイツの学生歌に関する海外調査であったが、次年度に延期することとなった。このため三年間という研究期間を考えると、達成度は「やや遅れている」と判断する。延期の主な理由は、調査の場所の特定や調査対象の厳選等の予備調査に時間がかかったこと、校務が多忙であったこと、個人的事情(家族の介護)等である。
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Strategy for Future Research Activity |
形成過程と変容において寮歌が国際的にも非常にユニークな音楽文化であると結論づける方向で、研究を進めていく。そのため、海外調査は必須と考え、ドイツはゲッティンゲン大学、アメリカはイエール大学で調査を実施する予定である。また、国際的に紹介するためにも、国際学会での発表を積極的に行っていく。平成27年度は、第10回環太平洋音楽教育研究シンポジウム(10th Asia Pacific Symposium for Music Education Research 2015/7/10-13 The Hong Kong Institute of Education)で寮歌祭について口頭発表することが決まっている(受理済み)。また平成28年度に予定している世界音楽教育者会議(International Society for Music Education 2015 Glasgow)での発表に向けても準備を進めている。国内の調査は、各校ごとの形成過程を明らかにすること、変容に関しては戦前と戦後、つまり旧制高校の終焉を境目として分け、研究を進めている。とりわけ戦後、後身校においては体育会の活動となり、卒業生は寮歌祭という形で歌い継いだという二分化の伝承形態に関心があるので、寮歌祭等の「歌う活動の現場」に参加しながら、調査していく予定である。またドイツ学生歌の伝承との比較も射程に入れて、海外調査も進めて行く。
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Causes of Carryover |
海外調査を延期したこと、またPCや録音機器など取材や分析に必要な機器購入を、見合わせたのが主な理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費に関しては、夏休み又は春休みに海外調査を1回、7月に国際学会での発表を1回行う予定でいるので、その際使用する計画である。 物品費はPCを新たに購入する予定なので、その際使用する計画である。 謝金は、国内外の取材や情報、資料提供者へのお礼に使用する予定である。
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