2014 Fiscal Year Research-status Report
東アジア文化圏大衆文化における「近代」―「少女歌劇」系芸態から―
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26370115
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
細井 尚子 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 教授 (40219184)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 弥生 文京学院大学, 外国語学部, 准教授 (00389876)
中野 正昭 明治大学, 文学部, 兼任講師 (40409727)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 東アジア / 大衆文化 / 近代 / 少女歌劇系芸態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は「非西洋」が「西洋」と接触する中で生み出した「近代」大衆文化における「伝統」と「現代」の関係、「他」による「自」の再構築がどのようなものであったかを、対象地域である日本(本土)・沖縄・中国・台湾・韓国の近代娯楽市場において誕生した芸態で、近代のもう1つの側面である娯楽消費主体として登場する女性・子供の支持を得た少女歌劇系芸態をサンプルに、当該社会における演芸・芸能においてサンプル芸態を定位した上で、比較研究によって東アジア文化圏の大衆文化における「近代」を解明するのが研究期間における最終目標である。研究方法は日本国内在住の研究分担者、連係協力者、国内外の研究協力者を対象地域・対象芸態別に分けた各自の分担研究と、共同研究で行う。 初年度は前半期に代表者が所属する立教大学をベースに研究協力者による講演会など(5回)、全カリ主題別B「少女歌劇の100年」で代表者、分担者、協力者による講義、学会発表などで各自の研究成果を発信し、研究会で共有したメンバー全体の研究蓄積を基に、全体及び後半期の活動計画を検討し、共有した。 後半期は代表者が在外研究で台湾・台北芸術大学に滞在、メンバーは分担研究活動を主体としたが、11月に台湾・成功大学で開催した『2014女性戲劇國際研討會』は本課題が共催、代表者は主催側メンバーだったため、代表者、分担者、協力者も研究発表、系列講座での講演(6回)を行った。また、代表者は資料分析に基づき、台湾の近代娯楽市場と日本・中国の同時期娯楽市場の距離感の近さを抽出、台湾の近代娯楽市場及び大衆演劇研究を東アジアの枠組で読み直す共同研究組織として、台北芸術大学の教員とともに「東亜戯劇教師社群」を申請、認可され、台北芸術大学の研究助成を得て研究活動を開始した。これは台湾における本課題の目的達成のための国際学会設立の前身であり、核となるメンバー・研究となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の研究方法は分担研究・共同研究の2種の併用を設定しているが、分担研究においては対象とする地域によって、サンプルの基礎的資料が十分ではない。当初計画では初年度に①基礎資料の作成、②関係者(提供側・需要側)のインタビュー調査によるオーラル・ヒストリーの蓄積を重要課題とした。 日本物を担当する分担者、協力者は個々に蓄積を進め、分担者である中野正昭氏は11月の『2014女性戲劇國際研討會』において研究発表を行った。特にこの方面が薄い状態である韓国の女性国劇に関しては、協力者の洪栄林氏が積極的に資料収集に務め、同じく『2014女性戲劇國際研討會』において新補充資料に基づく発表を行い、一定の成果をもたらした。中国に関しては従来の蓄積も一定程度にはあるため、最も薄い領域の補充として、6月に音楽学の研究者である中国戯曲学院海震教授を新たに協力者として迎えた。台湾に関しては台北芸術大学の徐亜湘教授、簡秀珍副教授、林于竝副教授、張啓豊副教授も協力者として迎え入れ、各自が蓄積した①②の共有のみならず、台北芸術大学を主体として、台湾の各機関、各研究者が蓄積した資料のデータベースの共有計画を検討中である。沖縄に関しては連係協力者の板谷徹氏が継続して資料収集を進めている。 初年度の研究活動の特徴の1つは発信にあった。日本(本土)・沖縄・中国・台湾・韓国の近代大衆娯楽市場及びそのソフトの1種である少女歌劇系芸態研究を東アジア文化圏の枠組でとらえるならば、メンバー各自の従来の研究蓄積は地域・対象別の事例研究ととらえ得る。2015年度は、それを共通の視点、角度から比較研究することによって、東アジア文化圏の近代大衆文化研究として読み直す作業を行う。そのために11月の『2014女性戲劇國際研討會』及び台北芸術大学で組織した「東亜戯劇教師社群」は大きな一歩となり、次年度の研究活動のための準備も整った
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Strategy for Future Research Activity |
本課題が対象とする東アジア各国間の昨今の状況から、代表者が所属する立教大学以外に、各国いずれとも距離感のバランスが良い台湾にも活動拠点を設けることは重要であり、代表者は2015年度前半期も継続して台北芸術大学に滞在するため、「東亜戯劇教師社群」の活動に注力する。 当初の計画では2015年度前半期に、各自が担当する芸態のありようについてまとめ、当該社会の演劇・芸能世界において定位し、代表者が所属する立教大学で開催するシンポジウムで中間成果として報告し、メンバー全体で共有して各自の研究にフィードバックし、後半期は相互比較検討に着手する予定であった。しかしその後、代表者が在外研究を許され、2014年度後半~15年度前半、台湾台北芸術大学に滞在することになったこと、更に2014年度後半の成果を踏まえ、計画を以下のように修正する。まず、共同研究の方法に同じ素材を各自の研究蓄積を生かし、各自の専門分野に立って研究する形を導入する。そのため2015年度前半に代表者、分担者、連係協力者、協力者の一部で沖縄の対象芸態である沖縄芝居の中の女性のみで演じる劇団、及び沖縄芸能の共同調査を実施する。この調査で収集した資料を基に、各自の分担以外に沖縄芸能を素材とした研究活動も行う。具体的には「東亜戯劇教師社群」の研究活動において、本課題のメンバーが共有するテーマを設定し、各自の研究対象としてきた芸態との比較研究を行う。 2015年度後半期は代表者が立教大学に戻るので、研究活動の中心は台湾と日本の2か所に置いて継続する。立教大学をベースに日本在住メンバーは研究会の形で、また台北芸術大学ベースの方では韓国、中国の協力者も含めて研究活動を進め、代表者も出来る限り参加する。最終年度前半期に、各自の分担研究及びこの共同研究の成果を、国際シンポジウムの形で発表し、後半期には論文集刊行につなげるようにしたい。
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Causes of Carryover |
代表者は本課題を科学研究費に申請したのち在外研究を認められ、2014年度後期は台湾に滞在した。申請書に記したように、研究対象の地理的範囲である日中韓三国間の近代大衆娯楽市場を扱う本課題にとって、政治的緊張状態の影響を受けにくい台湾にも研究拠点を置くことは、研究の順調な遂行にとって重要である。後期期間に台北芸術大学所属の研究協力者とともに、複数学部の研究者で構成した研究会(東亜戯劇教師社群)を組織、台北芸術大学の研究項目として認められ、台湾における研究拠点の基礎ができた。 この研究会の活動を通じ、本研究課題の活動計画を申請時より発展的に修正し、最終成果報告を2016年度に台湾で開催する国際シンポジウムとし、論文集を刊行する。このシンポジウムでは各自の分担テーマに関する研究成果のみならず、共通素材を各専門・研究蓄積に基づいて分析、研究した成果の交換、討論を行うラウンド・テーブルを設ける。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前項理由で記載した、ラウンド・テーブルの共通素材として沖縄芸能を設定した。理由は3点ある。まず、東アジア文化圏において、中国・日本と関係をもっていた琉球王国の王府芸能には両国の影響が見られるが、独自の文化を形成し、近代には日本の演劇の影響を強く受けて独自の大衆演劇を形成した。本研究課題の重要な視点である「自」「他」の関係を考察する上で、有益であると判断した。また、近代における日本化政策は台湾と近似する面があり、近代娯楽市場の国を越えた距離感を考える上でも重要なサンプルとなる。更には沖縄は組踊の継承・振興、大衆演劇である沖縄芝居の振興に取り組み、一定の成果をあげており、少女歌劇系芸態に属する劇団が活動している。 第二年度の研究費は本課題の研究組織メンバー(日中韓10名)で沖縄芸能調査・資料収集、研究交流を実施するには不足するため、初年度研究費から必要相当分を第二年度に繰り越した。
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Research Products
(12 results)