2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370121
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
服部 正 甲南大学, 文学部, 准教授 (40712419)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アウトサイダー・アート / アール・ブリュット / 障がい者アート |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近年「アール・ブリュット」の名前のもとで注目を集めている知的障がい者の創作活動について、澤田真一の作品を具体的な検証事例としながら、その美術批評的観点から検証する手法を確立することを目指している。 本年度は、その研究の一環として、澤田真一の作品を2006年という比較的早い段階で評価し、2008年には約15点の作品を収蔵・展示したスイスの美術館の研究者への聞き取り調査を行った。ローザンヌのアール・ブリュット・コレクション前館長で同コレクションの国際調査官を務めていたリュシエンヌ・ペリー氏、現館長で2006年当時の調査に学芸員として参加していたサラ・ロンバルディ氏と面会し、澤田真一の作品評価や日本の障がい者アートに対する見解などについて、聞き取り調査を行った。両氏ともに、澤田の作品を日本の障がい者福祉施設で作られる陶芸作品の中でも、作品の質、作者の制作スタイルの面で際立った特別な存在と受け止めていることが明らかになり、その点では日本において「アール・ブリュット」の名前のもとで知的障がい者の陶芸作品全般を評価する風潮とは一線を画していることが分かった。 上記の調査に引き続き、アール・ブリュットという概念の発祥の地であるパリでも調査を行った。日本の障害のある作家の作品が出品される大規模な展覧会がパリで開催されたためである。そこでは、澤田作品が展示されている展覧会を実見して調査するとともに、関係者から聞き取り調査を行うこともできた。 日本国内で開催される「アール・ブリュット」展の調査と合わせて、澤田の作品をはじめとする日本の知的障がい者の作品に対する評価のスタンスを相対的に把握することができたのは、研究初年度としての大きな成果となった。「アール・ブリュット」に対する関心の高まりは国際的現象だが、その捉え方に日本と欧米で差があることを明確にできたことには大きな意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要な目的のひとつである知的障がい者の創作についての聞き取り調査と国内外において澤田氏らの作品に対してなされた評価の分析については、当初の計画以上の進展が見られた。2度の海外調査では、日本の障がい者アートに対する海外の専門家の評価姿勢を数多く調査することができた。とりわけ、パリでの大規模な展覧会に合わせて現地調査を行うことができたため、計画していたよりも多くの専門家に対する聞き取り調査を行うことができた。一方、国内での調査研究においても、多くの福祉施設を訪れて調査を行うことができたが、肝心の澤田真一の作品調査においては、当初の計画に多少の遅れが見られる。調査方法の制度設計や関係者との連絡に予想以上の時間が必要となったからだ。しかしこれも、今後の丁寧な調査のためには必要で意義のあるステップだったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、若干の国外研究とともに、国内での研究のペースアップを図りたい。特に、澤田氏の創作活動を長年にわたって支援している池谷正晴氏への聞き取り調査は、平成27年度に集中的に取り組む予定である。そこから、滋賀県内の福祉施設での取り組みの歴史研究へとつなげていきたい。この種のオーラルヒストリーのアーカイブ化においては、調査対象者との協力関係の構築が何よりも重要である。その点に留意しながら、丁寧な交渉と調査を進めていく必要がある。国外調査については、平成26年度の経験から、日本の障がい者の作品が展示される展覧会のタイミングで調査を行うことが効果的であることが分かった。国外での最新の展覧会情報を収集しながら、効果的な調査計画を立てて、研究の充実を図りたい。
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Causes of Carryover |
国内調査の回数が予定より少なかったため、当初の計画と多少の誤差が生じた。調査用物品の購入についても、調査の進捗に合わせて購入すべき品目が決定されるため、国内調査の進捗状況の影響により多少の誤差が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き、国内外での聞き取り調査や文献による調査を進めるとともに、調査手法の制度設計の精度を上げて実際のデータベース化の作業に着手できるようにする。
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Remarks |
その他の社会への研究成果の還元として、以下の項目が挙げられる。 服部正、「山下清展沖縄開催に寄せて」、『琉球新報』、2014年10月5日朝刊13面;服部正、「芸術の「境界」は今」下、『毎日新聞』、2014年10月30日夕刊6面;服部正、「余暇活動の先にあるものを探して」、『文化庁平成26年度戦略的芸術文化創造推進事業 心揺さぶるアート事業 報告書』、2015年3月、32ページ・(16-17)
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Research Products
(1 results)