2014 Fiscal Year Research-status Report
19世紀英国の芸術家集団による恊働的実践―「古代人たち」から「エトラスカンズ」へ
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26370124
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山口 惠里子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20292493)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 古代人たち / ラファエル前派兄弟団 / テクノロジー / 中世主義 / 国際情報交換 / イギリス:アメリカ合衆国 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、芸術家集団「古代人たち」(The Ancients)の恊働性についての研究調査を開始した。関連文献を狩猟したほか、S. パーマーらの作品の調査を行った。調査は、筑波大学、ロンドンのナショナル・アート・ギャラリー、ヴィクトリア&アルバート博物館、テイト、ナショナル・ギャラリー等で行った他、今後の調査のためにオクスフォードのアシュモリアン博物館に作品に関する調査を申請した。 平成27年度の研究として予定していたラファエル前派兄弟団に関する調査研究も行い、研究成果を論文「ラファエル前派の中世風絵付け家具における「無骨な」テクノロジーーーデザインとマテリアリティのあいだ」にまとめ、『ロンドンーーアートとテクノロジー』(山口惠里子編、竹林舎、2014)に発表した。『ロンドンーーアートとテクノロジー』は、20名(山口を含む)の執筆者による論文集で、19世紀ロンドンのアートシーンをアートとテクノロジーの関係から描出したものであり、産業革命後にテクノロジーが急激に進展し、共同体に基づく社会から「近代的」個人によるアトム化された社会へと人びとの営みのかたちが急変していくなかで、芸術家が恊働的実践に作品制作の拠り所を求めた背景を追究している。本書に、上記論文と序論を執筆したほか、A.グリーヴ氏のロセッティ論を翻訳した。本書にはT. バリンジャー氏の論文の翻訳も含まれる。翻訳の過程でグリーヴ氏、バリンジャー氏らとの情報交換を行った。 『イギリス文化事典』(丸善出版、2014)に4項目(「ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ」「ウィリアム・モリス」「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」「アーツ・アンド・クラフツ運動」)を執筆、さらにラファエル前派と関わりがあった画家にも言及した論文「乳房に恵まれるーーヨーロッパにおける授乳するマリア像」を『乳房の文化論』(淡交社、2014)に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」に沿って、「古代人たち」の恊働性について調査を行ったほか、「ラファエル前派兄弟団」の恊働的実践に関する研究成果を論文として編著に発表した。その成果を事典項目の執筆にも反映した。現在、これまでの研究内容をまとめた書籍の刊行を準備中である。 また平成27年度の研究調査の下準備として、各美術館・図書館に調査内容を連絡しており、平成26年度の研究から進展させる用意ができている。 イギリス19世紀芸術家の恊働的実践という研究テーマの延長線上で、ジョン・ロックウッド・キプリングがインドで行った芸術教育についての研究も行っている。キプリングはラファエル前派の影響を受けて、アーツ・アンド・クラフツ運動の流れをくむ芸術教育をインドで行った。ラファエル前派の恊働性が、キプリングの教育を通して、インドでどのように引き継がれ、あるいは変化したのか、この点も平成27年度に調査する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、ラファエル前派兄弟団の恊働性を「モダニティ」の観点から実施する予定である。平成26年度にその研究の一部の成果をすでに発表したが、平成27年度はラファエル前派兄弟団の恊働性の研究をさらに進める。また平成26年度の研究課題である「古代人たち」の研究もロマン派との関係もふまえて深化させ、論文として発表したい。編著『ロンドンーーアートとテクノロジー』においてラファエル前派が活動した「ロンドン」のアートシーンについて論じたことをふまえ、平成27年度は「古代人たち」が制作拠点としたイギリスのケント州ショーラム村における調査を実施し、都会と地方における恊働的実践を比較考察する。また、イギリスでの調査を、アシュモリアン博物館、ナショナル・アート・ライブラリー等で続行する。 イギリス19世紀美術・文学の専門家であるJ. B. ブレン氏(レディング大学名誉教授)を招聘し、ブレン氏のセミナーを開催する予定である。ブレン氏はラファエル前派に関する書籍・論文も多数出版されている。ブレン氏のセミナーにおいて国際的な研究の情報交換を行いたい。
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Causes of Carryover |
資料購入費の一部が想定よりも少額で済んだため、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
10476円の残金は、平成27年度の研究に必要な書籍の購入にあてる。
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Research Products
(3 results)