2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370125
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奈良澤 由美 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (60251378)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 宗教美術 / 礼拝空間 / キリスト教 / フランス / 地中海地域 / 装飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.サント=マリー=エ=サン=ヴェラン聖堂(ヴォークリューズ県、フォンタテーヌ=ド=ヴォークリューズ)およびサン=タンヌ旧司教座聖堂クリプト(ヴォークリューズ県、アプト)において、再利用材の状態の確認のための現地調査を行った。11~12世紀に建設・改修された聖堂内にはめ込まれた組み紐模様の典礼備品彫刻石材の断片や初期キリスト教時代的形態を有する祭壇などの記録と年代確認を行った。 2.南ガリア地域の古代末期(後4~7世紀)の集落、墓地、聖域からの中世の集落、墓地およびキリスト教聖堂への移行について、その継続と断絶の状況を検討するために、都市および田舎環境の地誌研究に関する資料収集を進め、現時点での研究状況における問題点を明確にすることを試みた。 3.キリスト教聖堂の典礼空間について、フランスを中心に、古代末期からゴシック時代へ、さらにトリエント公会議後から現代まで、関連研究資料の収集を行い、その模索と変遷について考察を行った。 4.聖人崇敬のための礼拝空間における初期キリスト教時代の記憶の問題について、マルセイユ(ブーシュ=デュ=ローヌ県)の事例を中心とした研究を進めているが、シリア・パレスティナなど東方地域の聖遺物崇敬との関連について、本年度はナルボンヌ(オード県)などの古代末期の司教座聖堂について調査研究を行い、東方の聖地との南ガリアの密接な関係と、南ガリアの港町キリスト教遺構の特殊性について検討した。 5.組み紐装飾の「擬古性」について、中期ビザンティン美術との比較研究を進めるために、イスタンブルおよびリキア地方を調査した。本調査においては、ミュラの聖ニコラウス聖堂、クサントス遺跡、アンタルヤ博物館、トロス司教座聖堂遺跡などを視察し、彫刻石材の調査分析を行った。また文献資料を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
聖人崇敬の礼拝空間の創造のために「擬古的な演出」が特に明確であり、かつ保存状態の良い2つのロマネスク聖堂の現地調査を行ったことにより、次年度以降の調査基準を得た。また、両聖堂共に19世紀末以降の礼拝空間の再整備が行われているが、その状態も確認した。 古代末期の南ガリアのトポグラフィー研究を集中的に進めたことにより、中世期における礼拝空間に関する「記憶」と古代末期の実際の状況の照らし合わせが、都市ごとに様々な問題点を抱えている現在の研究状況を把握した。次年度以降、いくつかの都市・集落を選択し、より厳密な調査を進めていく。 本年度、キリスト教聖堂の典礼空間について通時代的な考察を進めたが、その過程で、ロマネスク時代のプロヴァンス地方の至聖所の様相のいくつかの特性が検討され、特に、シュントロノンとカテドラを伴った初期キリスト教的な至聖所の復活は、ロマネスク後期の当該地方の特徴であり、その背景を探るために、フランス北部との比較研究を進めることが必要となった。次年度以降の課題とする。 一方、中期ビザンティン時代の装飾模様の成立をめぐる問題への取り組みは、ロマネスク美術における組み紐模様の考察と密接に結びつくため、今後の比較研究への第一歩となったと考える。装飾美術の特殊な発展原理と擬古的性格のなかで、組み紐模様の中世美術での位置づけを試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.マルセイユのサン=ヴィクトール修道院の起源をめぐる問題について、これまで収集した資料を検討し、11世紀~12世紀の至聖所の様相と、聖ヴィクトールの墓の伝統について、考察をさらに深め、報告論文としてまとめていく。また、ロマネスク時代の擬古的礼拝空間の創設に関連して、フォンテーヌ=ドゥ=ヴォークのサント=マリー=エ=サン=ヴェラン聖堂と比較しながら、カヴァイヨンのノートル=ダム=ド=ヴィニェール小聖堂の例についての調査にとりかかる。 2.三葉形の聖堂(ラ・セルのノートル=ダム=ド=ラ=ゲイヨル聖堂、ヴナスクのノートル=ダム聖堂、レランス島のラ・トリニテ小聖堂など)の建設の背景を、当該研究の観点から考察し、ロマネスク時代の内部空間の復元を試みる。 3. アルルのサン=セザール修道院教会、ブルグ=サン=タンデオルのサン=タンデオル教会堂などの、聖人の聖遺物容器として使用された古代ないし初期中世の石棺についての調査を進める。改ざんの状況、ロマネスク教会内での配置場所、配置方法をできる限り明らかにする。 4. プロヴァンス地方のロマネスク時代後期から末期のいくつかの聖堂の至聖所にみられる復古的な内装と、特にカテドラの位置の問題について、比較研究のための資料を収集する。 5.聖堂壁面にはめ込まれている組紐模様を持つ石材の作例について、写真資料の収集、分類を進める。いくつかの聖堂について、現地調査を開始する。
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Research Products
(3 results)