2014 Fiscal Year Research-status Report
初期近代植民地美術における「文化境界上の現象」:事象研究と方法論の探求
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26370133
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡田 裕成 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (00243741)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ラテンアメリカ / 植民地 / 美術 / 接触領域 |
Outline of Annual Research Achievements |
大航海時代以降、今日に至る「グローバル化」の最初の段階に踏み出した世界において、ヨーロッパと非ヨーロッパの接触は、その文化の境界上に、特異な美術の領域を生みだした。とりわけメキシコやアンデス地域を中心とする、ラテンアメリカのスペイン植民地には、そうした異文化の接触と交渉の場が多様なかたちで出現する。本研究は、この異文化接触領域における「境界上の美術」に特有の現象を、個別的な事例の詳細な研究を通して明らかにする。同時に、比較可能な関連領域の研究者との議論を通して、「文化境界上の美術」というべきものの特性を明確にし、その研究に固有の方法論を探求する。 異文化接触領域の美術に固有の「境界上の現象」を明らかにするため、本研究は、1)これまでおこなってきた、「新世界」に関わる他者/先住民表象について、いっそう詳細な研究を進める。2)その上で、こうした個別事例を通して浮かび上がる「境界上の現象」固有の論点を、「異文化接触領域の美術史」の基本的概念として明確に規定し、時代と地域を異にする事例との有効な比較研究をおこなう。 本年度の研究において、上記1の課題については、美術作品や祝祭空間における、「先住民的」な表象について検討をおこなった。とりわけ注目されたのは、征服後のアステカやインカの急王族たちの果たした役割だ。彼らは祝祭などの場で、さまざまな扮装による行列行進などをおこなった。その同時代の記録史料を分析することで、その「先住民的」表象の形成過程を詳細に検討し、征服者の同盟者となった先住民エリートの関与の重要性を解明した。 また、もうひとつの課題である方法論敵省察については、美術、音楽、演劇パフォーマンスの領域から関連する研究者を招いて公開シンポジウム「接触領域の芸術」を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の通り本研究は、異文化接触領域の美術に固有の「境界上の現象」を明らかにするため、1)これまでおこなってきた、「新世界」に関わる他者/先住民表象について、いっそう詳細な研究を進める。2)その上で、こうした個別事例を通して浮かび上がる「境界上の現象」固有の論点を、「異文化接触領域の美術史」の基本的概念として明確に規定し、時代と地域を異にする事例との有効な比較研究をおこなう。 課題1については、関連する一次資料の分析検討に基づき、「先住民的/インカ的」表象の形成と、征服者の同盟者となった先住民エリートの関係について一定の結論を得た。このせいかは2015年6月にアレキパ(ペルー)において開催される VII Encuentro Internacional de Barroco において報告することになっている。課題2については、本年度すでに、国立民族学博物館において民族藝術学会との共催により開催した公開シンポジウム「接触領域の芸術」において、美術、音楽、演劇パフォーマンスの領域の関連研究者と幅広い議論を展開した。その成果は、2015年3月発行の学会誌『民族芸術』において公刊した。また、上記2点に関連する成果は、2014年9月に刊行した著書『ラテンアメリカ 越境する美術』(筑摩書房)にも広く反映させた。 以上の通り、研究の成果は着実に上がるとともに、その成果物の発表・刊行も当初の予想以上に順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は現在のところ非常に順調に進展しているので、その成果に立脚して必要な微調整をおこないながら、今後も着実に計画を進める。 上記の課題1:「新世界」に関わる他者/先住民表象については、インカ王族の関与に関する研究が進展したことを受け、2015年6月にアレキパ(ペルー)に出張し、VII Encuentro Internacional de Barroco において、研究成果の発表をおこなう。またこれに合わせ、現地の関連機関において、資料収集をはかる。また、研究集会に集まる関連分野の研究者と積極的な研究討議と情報収集をおこない、研究のいっそうの進展を図る。 課題2の「異文化接触領域の美術史」の基本的概念の研究については、海外共同研究者のひとりルイサ・エレナ・アルカラ(マドリード自治大学教授)を日本に招聘し、公開の研究集会および研究打合せをおこなう。そこでの討議を踏まえて、異文化接触領域の芸術研究に関わる方法論と視点の確立に向けて着実に研究を進める。
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Causes of Carryover |
2015年6月にアレキパで開催される国際学会において研究発表を行うこととしたため、本年度の海外出張を繰り延べした。必要な資料収集は、この学会出席とあわせて行う。 これ以外の予算については、おおむね当初予定していた項目を予定通り27年度中に実施したい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の通り、繰り越した予算は、新年度6月に実施する国際学会出席のための旅費の一部として執行する。 残りの予算の使途については、当初予定の通り、ルイサ・エレナ・アルカラ(マドリード大学教授)の招聘ほかの経費として使用する。
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