2015 Fiscal Year Research-status Report
初期近代植民地美術における「文化境界上の現象」:事象研究と方法論の探求
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26370133
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡田 裕成 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00243741)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 植民地美術 / ラテンアメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
大航海時代以降、今日に至る「グローバル化」の最初の段階に踏み出した世界において、ヨーロッパと非ヨーロッパの接触は、その文化の境界上に、特異な美術の領域を生みだした。とりわけメキシコやアンデス地域を中心とする、ラテンアメリカのスペイン植民地には、そうした異文化の接触と交渉の場が多様なかたちで出現する。本研究は、この異文化接触領域における「境界上の美術」に特有の現象を、個別的な事例の詳細な研究を通して明らかにする。同時に、比較可能な関連領域の研究者との議論を通して、「文化境界上の美術」というべきものの特性を明確にし、その研究に固有の方法論を探求する。 この目的に基づき本年度は、16-17世紀アンデスの祝祭におけるインカ王表象の利用について幅広い研究をおこなった。そのなかで、征服後のインカ王族がイグナティウス・デ・ロヨラ列聖のようなスペイン人主催の祝祭などの場にインカ王の扮装で参加し、みずからの社会的生存を図る示威行動を取っていたこと、またその際、古代ギリシア・ローマの神話や肯定に関わる図像を流用するような演出をおこなっていたこと、さらに、その演出に際してスペイン在住のインカ王族が深く関与していた可能性が高いことなどを明らかにした。その成果は、サン・パブロ・カトリック大学(ペルー、アレキパ)で開催された VIII Encuentro Internacional del Barroco において発表した。また、植民地における他者表象をめぐる交渉については、ヴァンダービルト大学(米国、ナッシュヴィル)で開催のシンポジウム Rethinking Forced Resettlement in the Colonial Andes においても研究報告をおこなった。 さらに、方法論的考察を深めるため、マドリード自治大学准教授ルイサ・エレナ・アルカラ氏を招聘して、公開講演会と研究ワークショップを開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は上に提示した目標に基づく研究計画を着実に実施するとともに、国際学会において2回の研究発表をおこなうとともに、海外から研究者を招聘して研究成果の共有を図った。成果の具体化は想定以上の状態にあると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、「境界上の美術」に特有の現象を、個別的な事例の詳細な研究を通して明らかにするという研究の本体について、これまでの調査で蓄積した史資料の分析を進める。また、スペインに出張して追加の資料収集をおこなう。 方法論的課題については、アジア植民地美術との比較との観点から、当初計画の通りシンガポールに出張して、比較事例に関わる資料収集をおこなう。 あわせてこの成果に関わる研究発表を国内学会においておこなう。
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Causes of Carryover |
年度末に海外出張を予定して前倒しの支払い請求をおこなったが、先方機関の事情(開館後間もなく用務多忙)のため出張実施を延期したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度前半を目途に、昨年度実施予定であった海外出張をおこなう。
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