2016 Fiscal Year Research-status Report
中国における涅槃図像の変容に関する研究ー敦煌・西安・四川の相関関係ー
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26370140
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
村松 哲文 駒澤大学, 仏教学部, 教授 (30339725)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 涅槃図像 / 敦煌 / 西安 / 四川 / 中国 / 様式伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主要なテーマは、中国における涅槃図像の表現方法が仰向けから左脇を下にする姿勢に変化する過程を考察することであり、この変化が中国で如何なる経路で伝播するのか推察することである。こうした観点に立って本年度までに、敦煌、西安などの涅槃図像を整理しつつ、涅槃関係の経典等を精読しまとめてきたところ、いくつかの興味深いことに気づいた。 まずこれまで報告者は、仰向けの涅槃像が左脇を下にする姿勢になるのは、隋代頃からと推測してきたが、本研究を進めていくうちに北周時代の作例に左脇を下にした涅槃像を確認した。その作例は、西安の郊外にある薬王山石窟に所蔵されている「田元族造像碑」に刻まれた涅槃像である。本碑には、仏弟子の田元族なる人物が北周・保定三年(563)に亡息のために石像を造ったという銘文が残されており、制作年代が明確な涅槃像であることから、現在までに確認できる右脇を下にした最も古い作例であるとが分る。 北周というと、廃仏というイメージがあるが、廃仏の直前までは宇文護による熱烈な仏教崇拝の国家であった。報告者はこの点に着目し、廃仏を断行した武帝の直前、宇文護の仏教事業を考究した。なかでも訳経事業は盛大であり、記録では「泥〓の説」(涅槃の説)という記述も確認でき、涅槃関係の経典も大い漢訳されたことが推測できある。こうした情勢の中で、涅槃を完全なる悟りという解釈になったところで、本来の涅槃の姿である右脇を下にした姿勢が成立ったものと推察される。 一方で、もうひとつ注目した点がある。それは本来経典に記されている右脇を下にした涅槃像を仰向けにした理由である。この件について調査していくうちに、報告者は儒教的な思想が影響していると考えた。つまり儒教における死の概念が、あえて死の姿勢である仰向けにしたということである。現在は、こうした観点からも涅槃図像について研究を鋭意進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
涅槃図像について、3つの地域、敦煌・西安・四川の作例を比較検討しつつ、仰向けの涅槃像が右脇を下にした涅槃像に変化していく制作事情を追っている。現在まで、右脇を下にした涅槃像が従来確認されてきた中で最古作例であった隋代から北周に認められたことは大きな成果であったが、その伝播経路を考察するという点では、もう少し時間が必要となっている。 一方で、右脇を下にした涅槃像を追いつつ、なぜ本来の涅槃像の姿を忌避して、仰向けの涅槃像を制作したのかという理由を考察していたところ、儒教思想が大いに影響していることに気づき、現在はその点についても着実に研究を進めており、最終的には本来の目的を達成できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、中国の3地域(敦煌・西安・四川)の涅槃像を考察して、涅槃の姿勢の変化を追いつつ、その伝播経路を考察することが目的である。これまで仰向けの涅槃像から右脇を下にした涅槃像の境を遡らせることができたが、その経路についてはまだ調査中である。ただし、本年度の研究で西安郊外の薬王山石窟に所蔵されている石碑に、右脇を下にした涅槃像が確認できたことから、敦煌石窟よりも先行することが理解できた。西安から敦煌へという経路が推測できたので、今後はそれが四川にどんな経路で伝わるのか研究を進めていきたいと思う。 また本年度研究を進めていく中で気づいたこと、つまり儒教思想の涅槃への影響についても、今後さらに詳細に考察を進めていきたい。これにより、中国における涅槃の解釈、涅槃像の総合的な理解が可能になると考えている。
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Causes of Carryover |
諸事情から調査に行こうとしていた個所に行かなかったこと、購入しようとし図書が所属機関にあったことなどから、使用予定の金額に満たずに残高が生じることになった。また研究を進めるうちに、新しい課題が生じたため、次年度のために予算を使おうと考えたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究を進めていくうちに新たな課題が生じ、本研究を遂行していく上で、その課題を考究する必要がある。その課題を研究するために有効に使用したいと考えている。
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