時の視覚化としての星宿図と歳時図の解釈－数理天文学の援用によるジャンル越境の視点

2014 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 26370145
• Research Institution: Osaka Institute of Technology
• Principal Investigator: 松浦 清 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (70192333)
• Project Period (FY): 2014-04-01 – 2017-03-31
• Keywords: 星宿図 / 歳時図 / 時間絵画 / 星曼荼羅 / 春日宮曼荼羅 / 文人画 / 画賛 / 古天文学

Outline of Annual Research Achievements

星曼荼羅などの星宿図と、四季絵や月次絵などの歳時図は、前者が密教画、後者が装飾画という独立したジャンルとして位置づけられることが一般的である。しかし、両者の中心モチーフである日月星宿表現に対して「時の視覚化」という観点を導入することにより両ジャンルに「時間絵画」としての枠組みを与えることができれば、関連絵画を統一的な視点によって解釈することが可能になると考えられる。その研究手法の提案と成果が当該研究の中心課題である。
宗教絵画については、これまで行ってきた星曼荼羅の研究を継続しつつ、本年度は新たに春日宮曼荼羅を考察の対象に取り上げた。春日宮曼荼羅の画面上部に描かれた春日山には円相が添えられている。この円相をめぐっては、それを日輪と解釈するのか、月輪と解釈するのかで議論が分かれている。円相は画面全体の四季表現とも関連する重要表現であり、春日宮曼荼羅の制作の意義にも直結する重要な要素である。金輪を朱の輪郭線で括るという描写手法から日輪とされる一方、和歌の伝統と結びつけて月輪とも解釈される。この円相は春日宮曼荼羅ではほぼ同じ位置に描かれており、特定の日時の景観を描き込んでることが予想される。日輪の場合は、例えば春分など、また、月輪の場合は、釈迦の誕生や涅槃の日などが考察の対象として想定される。いずれの場合も、太陽と月の運行に関するコンピュータ・シミュレーションの結果を参考にすることが研究上有効と考えられ、その結果を分析している。
一方、中世絵画の枠を超えて「時間絵画」を概観する意味から、近世絵画にも考察の対象を広げた。星宿図や歳時図とは一見無縁な文人画の時間感覚も参考として考察した。文人画は画賛を伴うことが多く、この画賛が時間感覚のメルクマールとなる場合があると考えたためである。
いずれの研究も分析の途中であり、引き続き考察を進める。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

星宿図や歳時図といった既存のジャンルを超えて、日月星宿表現を伴う各種の絵画作品を分析するため、今年度は、継続的な研究対象として位置づけている星曼荼羅に、新たに春日宮曼荼羅を加え、また、画賛を伴う文人画も研究対象とした。春日宮曼荼羅は春日山の山の端に描かれた円相表現の解釈が考察の中心であり、文人画は研究手法の妥当性を検討するための参考として取り上げている。
春日宮曼荼羅の円相につては、日輪あるいは月輪と解釈する際の根拠を、太陽あるいは月の出現位置と春日山との関連性から考察した。これについては古天文学を踏まえたコンピュータ・シミュレーションの結果を利用し、分析中である。また、文人画については、絵画と画賛との関連性を分析し、特に画賛の漢詩部分に旧暦世界の時間感覚が盛り込まれている作例について、考察を加えた。
これらの分析を通して、従来の枠組みにとらわれない「時の視覚化」としての新たな絵画研究の可能性について、一定の手応えを感じている。

Strategy for Future Research Activity

今年度は、春日宮曼荼羅と文人画という従来の絵画ジャンルの感覚からすれば極めて異質で対照的な作品を研究対象とした。それらの絵画ジャンルを「時の視覚化」の概念のもとにどのように具体的に関連づけるかが今後の課題となる。また、継続的な研究対象と位置づけている星曼荼羅については、今年度は十分に取り上げることができなかった。特に、円形式の星曼荼羅の九曜配置は円形式の本質に関わる特徴であり、密教経典としての「七曜攘災決」に記載されている惑星運行データなどが、九曜配置を決定する上で重要な鍵になると予想される。この点については統計学的な分析と処理が必要になることも同時に予想され、来年度の研究の中で考察を進めたい。