2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370172
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
外岡 尚美 青山学院大学, 文学部, 教授 (10227605)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | ロン・アセイ / パフォーマンス・アート / 苦痛 / 情動 / 共同性 / 身体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の計画に従い、ロン・アセイのパフォーマンス・アートを中心に研究を進めた。まずロンドンでの現地調査では、大英図書館およびライブ・アート・デベロップメント・エージェンシーにて、アセイ関連の視聴覚資料および未出版資料をすべて閲覧し、アセイとも面会した。またキュレーターの協力を得て、その他のアーティスト(マリーナ・アブラモヴィッチ、ステラーク、ボブ・フラナガン)についての視聴覚資料の一部も閲覧した。その結果、アセイの作品群全体とアート、サブ・カルチャーおよび宗教的文脈、受容についての理解が深まった。 現地調査と並行して、苦痛と共同性について、アセイのパフォーマンス・アートに焦点を合わせて理論化を試みた。アセイおよびパフォーマンス・アート一般に関する先行研究と批評を併せて読み進めた結果、社会的・文化的な苦痛の意味付け、共同性を保証する(と考えられる)共感覚としての苦痛、さらに苦痛に対する情動、という三点に問題が絞られた。結果として本研究の前提でもあった〈共感覚としての苦痛〉は必ずしも共同性を保証しないこと、苦痛の社会的・文化的意味付けは多様であると同時に、複数ある解釈の可能性の枠内にとどまるという点でむしろ保守的であること、情動(アセイの場合は特に血に対する嫌悪)が、場合によっては予測される解釈を覆す可能性を持ち得ることが確認された。成果として論文「苦痛と嫌悪について――Ron Atheyと情動のパフォーマンス」を青山学院大学文学部「紀要」に発表した。 また、身体的知と共同性のあり方を考察するうえで、演劇において重要な模倣(mimesis)の概念について歴史的に再検討・確認する必要性を見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料の閲覧・収集に関しては、ロン・アセイについての関連視聴覚資料および未出版資料の閲覧は完了し、また他のアーティストについてもある程度まで閲覧・収集が進んだ。また、苦痛と共同性について、アセイのパフォーマンス・アートを中心に一定の理論化を行った。身体的知と共同性を考察するにあたって、当初は予定していなかった模倣(mimesis)の概念を歴史的に再検討するという課題も見出した。 アセイの作品の様式的側面についての研究はまだ十分進んでいないが、平成27年度の研究計画において、ステラークのパフォーマンス・アートを検討すると同時に、特に美術史の成果を参照しながら進める予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、26年度に引き続き研究対象となるアーティストについて現地調査を行う。特にステラークのパフォーマンス・アートを中心に資料を閲覧・収集し、分析を進める。メディアと主体を課題とし、メディア、サイボーグ、主体をキーワードに、パフォーマンス研究および他分野における先行研究を検討する。同時に、身体の異化という20世紀美術のテーマと、それに関する美術史の成果を参照しながら、アセイおよびステラークの行う身体の異化とその様式について考察する。 また模倣(mimesis)の歴史的考察を同時に進める。この課題は28年度の研究計画に直接関わるため、予備的に検討を進める予定である。
|
Research Products
(1 results)