2015 Fiscal Year Research-status Report
豊かな芸術表現のための粒金技術を可視化する、芸術と工学の学際的研究
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26370176
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Research Institution | Bunka Gakuen University |
Principal Investigator |
成井 美穂 文化学園大学, 造形学部, 助教 (70459957)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石黒 孝 東京理科大学, 基礎工学部, 教授 (10183162)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 粒金細工 / ジュエリー / 復元 / 文化財 / 金 / 銀 / 拡散接合 / ろう接 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属微粒子を基板上に立体的に配置・接合する粒金技法を明らかにするため、金工作家と材料科学者と連携した学際的な研究を進めた。 芸術学的視点研究では、26年度に純銀粒を使用して、基板にはジュエリー制作に適したAg-5Cu、接合ペーストを用いて接合実験を行った。27年度は純金粒を用いて純金基板上に金粒3個一列に配置して接合実験を行った。目視観察では純銀同様に濡れ性等の接合状態は良好であり、X線CT観察でも接合部での欠陥はみられなかった。また、純金を用いた接合試料の破断強度をボールシェアテストで計測した結果、基板が破断するほど強固な接合強度であると確認できた。しかし、三分ロウ(77Ag-23Cu)接合までの強度ではなかった。純銀粒や純金粒を直線上に配置してガスバーナーで接合する技術の確立ができたが、まだ施工の過程で塗布するペースト量の違いで接合強度にばらつきがあることもわかった。 材料学的視点研究では、26年度に引き続き接合ペーストについて検討を行った。前年度は木炭の粒度の最適化が課題となったが27年度はむしろ還元剤としての木炭粉の要素を除いてペーストを作製した。トラガカントゴム : 炭酸銅粉末 : ボラックス水 : 蒸留水=1 : 4 : 10 : 30重量比で混合し、炭酸銅粉末粒度による差異を検討した。ペーストと母材である純銀粉を1 : 1で混合した場合、大きな差異は確認できなかったが、X線回折及び質量・示差熱同時分析により、640KでCu2(OH)2からCuOへの酸化反応、880KでトラガカントゴムによるCuOからCuへの還元反応、そして1000K付近でのAgとCuの合金化と思われる反応を確認できた。合金化反応はAgの融点より200K程低温である。しかしながら熱処理後の試料ではCuの回折ピークは確認されなかった。これは大気中熱処理によりCuの再酸化によるCuO形成と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金属微粒子を基板上に立体的に配置・接合する粒金技法を明らかにするため、金工作家と材料科学者と連携して学際的な研究を進めた結果、おおむね順調に進展している。 芸術学的視点研究では、微細な粒を制作する方法を検討し、カーボンブロック上で溶解し表面張力を利用した作成法では、銀粒、金粒の質量、直径、形状の安定性が高く、粒の作成法は確立できた。現在粒金作家で使用されている、ペーストろうを使用して、粒を一列に板上に配置して接合する技法は確立できた。粒を直線上に配置して接合する技術の確立ができ、銀粒と金粒を配置装飾したジュエリーの試作ができた。しかし、ボールシェアテストでその接合強度にばらつきがあることもわかった。 26年度にデジタルマイクロスコープで外観観察したMIHO MUSEUM収蔵の粒金作品では、ろう接部の形状(フィレット)が非常に美しかった。27年度は、外観観察だけでなく粒金接合部の組成分析を行い、接合に使用するろうペースト等を検討する必要があると考えた。そこで粒金試料と分析機器を併せ持つ韓国で金製耳飾りの調査を行った。金製耳飾りの接合破断部をEDS分析した結果、韓国出土粒金作品は銅化合物を用いた接合法と考えられていたがAu-高Agろう付け法とわかった。また復元制作も踏まえて、採寸と外観観察も行い、それを元にレプリカ制作を行った。再現制作することにより立体的な接合と組立の手順の検討も行った。 材料学的視点研究では、接合ペーストに関するいくつかの要点が明らかとなってきた。即ち還元剤として木炭粉を用いた場合、その粒度制御が困難で未反応炭素が残存する事。また木炭粉を除くと合金化は進行するものの大気中熱処理では再酸化は生じてしまい、いずれの場合も強い接合強度とはなりにくい。従ってペースト自体の還元作用だけではなく熱処理雰囲気で酸化防止策をとる必要があることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
金工作家と材料科学者と連携して学際的な研究を進めて来た。さらに情報交換を密にして、粒金技法の解明・復元研究を進め、成果をまとめる。 芸術学的視点研究では、26年度は、銀粒を様々な方法で制作し真球度を計測し、一次元的に銀粒を並べ接合し、その技術を確立した。27年度は二次元、三次元的に銀粒,金粒を立体的に積み上げたり、曲面に配置するなど、美しく接合強度の高い技法を検討した。具体的には、ペースト中の炭酸銅粉末を瑪瑙すり鉢で粉砕し粒度を細かくしたペーストを作成し、接合実験を行った。28年度はそれらの結果を踏まえ、接合強度を安定させ、加えて、銀粒,金粒を接合する基板形状を板だけでなく角線や丸線に変えても、安定した接合強度を得られるようにする。 材料学的視点研究では、過去2年の検討を踏まえて、接合ペースト中の還元材、接合雰囲気、施工温度の接合部性能(接合部の組織、強さ等)への影響を明らかにして、施工法の最適指針を示す。 また、韓国の出土の金製耳飾りの調査結果から、復元制作を試み、古代の粒金技法の解明を進める。 このように、粒金技法の芸術学的視点研究と材料学的視点研究の推進で、古代の粒金技法の解明とともに、粒金技法の施工法を確立する。これらの成果をジュエリーデザインへ応用して、様々なアイテムのジュエリー作品を発表する。これらの成果を広く学会(溶接学会、金属学会等)公表するとともに、教場での学生指導に役立てる。
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Causes of Carryover |
粒金の接合実験や粒金細工のジュエリーを制作するのに使用する材料の金が、貴金属相場において高騰していたため動向をみて購入しようと考えたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験材料の金を購入する。 日本金属学会の学会誌に論文投稿する際、白黒ではなくカラーでの投稿を行う費用に充てる。
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