2014 Fiscal Year Research-status Report
メディアテクノロジー時代におけるアヴァンギャルド再考:山口勝弘の思考と表現
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26370190
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Research Institution | Konan Women's University |
Principal Investigator |
八尾 里絵子 甲南女子大学, 文学部, 准教授 (10285413)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北市 記子 静岡産業大学, 情報学部, 准教授 (90412296)
門屋 博 相模女子大学, 学芸学部, 准教授 (80510635)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 山口勝弘 / メディアアート / アヴァンギャルド / ヴィトリーヌ / 実験工房 / 環境芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度は、他機関との共同活動を重点的に行うことで、今まで我々が積み上げてきた山口に関する研究調査について社会的に有益であったことが実証できた。我々は前年までの研究活動(課題番号23520195)のなかで展覧会「回遊する思考~山口勝弘展」(平成25年11月)を開催しているが、その会期中に公益財団法人横浜市芸術文化振興財団からの依頼で、翌年秋に開催予定の大規模な個展への協力を打診された。結果として、翌年10月に開幕した「山口勝弘展―水の変容」(横浜市民ギャラリーあざみ野)において、その企画段階から参画することになり、展示計画やイベントの内容についても多くの助言を行った。それだけではなく、我々はこの展覧会に出品した作品においても山口と共に制作を行い、新たな作品の発表を可能にすることができた。 このように本展覧会は、山口の表現活動を記録し分析するという従来の研究調査の場であると共に、それらの知見に基づく研究成果の発表の場として捉えることができ、26年度の本研究課題遂行の中核となった。 また、今まで実現困難であった山口勝弘のアトリエ「淡路山勝工場」の内部調査を実施した。山口が平成12年に大病を煩い身体の自由がきかなくなり、既に20年近く放置されているアトリエであるが、過去作品や重要な資料が保管されているため、その保存状態について映像で記録した。これについては、山口本人にも現状の報告を行い、今後も必要に応じて調査を継続する予定である。 その他、現在もなお山口の依頼により、作品制作に関する補助を継続して行っている。我々は数年続けているこの調査を最も重視しており、山口の現在の姿の記録をとりながら、作品制作への熱い想いを共有している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
横浜市民ギャラリーあざみ野の「山口勝弘展―水の変容」が無事成功した為、26年度の達成度は高いと考えている。また、各々が研究成果の発表を学会等で行った際には、他の研究者から多大な助言と励ましを頂き、本研究の重要性を改めて認識することができた。 研究中盤となる今年は、これまでどおり山口の現在の活動状況を追いつつ、他との差異を見出して、研究をより発展させていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度の研究テーマは、(1)「環境芸術」の再定義 と、(2)「前衛的精神」の追求と分析 の2点について重点的に取り組む予定である。 (1)我々は先行研究(課題番号23520195)や展覧会「山口勝弘展―水の変容」において、山口の柔軟な表現スタイルの変化の中に、芸術表現に本来不可欠な、強固な信念のようなものを発見している。その「強固な信念のようなもの」をより明確に言語化することを目標として、山口自身とその作品群から現在進行形の表現活動を調査し、制作プロセスの記録と作品分析を行う。これにより、山口がかつて提唱した「環境芸術」の概念について、今日的な視点からの再定義を試みることができると考えられる。それは、「環境芸術」という言葉において、山口が提唱した当時の概念と、近年の多くの見解との間に生じてしまった大きなズレを、改めて定義し直すことである。 (2)我々の研究活動に深く関連する2つの展覧会で発表した新作の一部に、山口の初期の代表作である「ヴィトリーヌ」を彷彿とさせる手法を用いた作品が存在する。「ヴィトリーヌ」は、今日のインタラクティブアートに通ずる要素(双方向性)を絵画表現に導入した画期的な作品であり、日本の前衛芸術史においても、また山口自身にとっても、非常に重要なものとなっている。しかしその全貌は未だ不明な部分も多いため、本研究ではこれを改めて系統的に分析することを目指す。 これと並行して、山口が現在構想中のプロジェクトの実現に向けて具体的な方策を検討中である。そのひとつは、京都の寺院を会場とし、光の効果により演出を行う「環境芸術」的な要素を持つものである。これまでと同様に作品の実制作のサポートを行いながらその動向を詳細に記録し、その「前衛的精神」を継承する。
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Causes of Carryover |
前年度の繰越金が生じた理由として、26年度の主な研究活動が、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団主催の「山口勝弘展―水の変容」であった事が要因にあげられる。つまり、その展覧会に関する作品制作の準備や我々の旅費等について、主催者側の経費を主に用いた為、本研究費での支出が想定よりも小額となった。 今年度も前年度に引き続き、山口への聞き取り調査を重点的に行い、それと並行して関連する文献・作品資料の調査を行ってゆく。具体的には所蔵先の美術館等を訪問し、山口の代表作「ヴィトリーヌ」シリーズについてその全貌を調査する。それと並行して、メディアテクノロジーと社会との関わりという観点から、大阪万博における山口の功績を調査・分析する。また、今年度秋頃に開催予定の山口のロンドンでの個展開催に合わせて、従来より継続しているメディアアートの最新動向調査を予定している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究費のほとんどは国内外への調査旅費とし、繰越金に関してもその用途に支出する事に変更はない。山口への聞き取り調査は、本人と直接かつ共同で行うことが最も有効であり(先行研究の実績より)、その回数については前年よりも増加する予定(年5~6回程度)である。それ以外に山口の作品・資料調査の為、国内関連施設への訪問を予定している。さらに、山口の個展開催(ロンドン)に合わせて、秋頃に欧州への渡航も計画中である。 そのほか、作品制作に要する機材等も必要に応じて購入する予定である。
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Research Products
(8 results)