2015 Fiscal Year Research-status Report
メディアテクノロジー時代におけるアヴァンギャルド再考:山口勝弘の思考と表現
Project/Area Number |
26370190
|
Research Institution | Konan Women's University |
Principal Investigator |
八尾 里絵子 甲南女子大学, 文学部, 准教授 (10285413)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北市 記子 大阪経済大学, 人間科学部, 准教授 (90412296)
門屋 博 相模女子大学, 学芸学部, 准教授 (80510635)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 山口勝弘 / メディアアート / アヴァンギャルド / 環境芸術 / 実験工房 / ヴィトリーヌ / アーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、メディアアートの偉大な先駆者として知られる山口勝弘の現在進行形の活動に注目し、メディアアートに普遍的な「芸術とテクノロジー」の関係性を改めて問い直すことを目的としている。先の研究(課題番号23520195)を踏襲した本研究は、平成26年の大規模展覧会「山口勝弘-水の変容」(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団主催)において、企画段階から参画し社会的に好評を得た実績を持っている。また、その中で少しずつ見えて来た、山口の現在に至るまでの様々な体験や歴史的事象、多くの過去資料の存在と分析は、山口の現在の作品構想と密接に連鎖している重要な調査対象である。今年度は、これらの資料を重点的に調査することができた。 調査対象資料の大部分は二カ所のアトリエで保管されている。大病を煩い今の生活環境となる以前の生活空間であった品川区大井のアトリエと、国生み神話に由来し、先祖とも関連する地を選んだという兵庫県淡路市の淡路山勝工場であり、山口のご家族のご協力のうえで内部調査を実施することができた。 大井のアトリエ内部は比較的整頓されており、大まかに所蔵番号一覧と所蔵物の確認を行った。ここでは、山口の作品、他著名作家の作品、あるいは、作品原物までに至る夥しい数の写真や書類等の第一次資料を確認し、アトリエ内の作品・資料リストを完成することができた。 淡路山勝工場は、他研究チームが整頓した後にご家族と共に調査入りした為、昨秋の内部調査時よりも随分と整頓されていた。ここには大型作品を所蔵してあり、各々のサイズを計測し、作品番号を添付し所蔵一覧を作成した。 また、インターネット百科事典Wikipediaに「山口勝弘」を初投稿することで、山口が現役のアーティストである事を世界に発信することができた。同時に我々が数年かけて調査した山口の実績を事典の一項目として紹介することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで継続して実践してきたことは、山口勝弘の構想を的確に理解し新作の制作補助と発表を行うことである。ただしこの数ヶ月間は、山口の居住環境の変化や高齢者特有の症状等により、新作の構想が二転三転し、なかなか具現化に至っていない。しかしながら山口の豊かな構想計画は留まることなく我々に語り続けられ、それを巡って我々は知見を広げ、また、他の研究者らの力添えを得られ人脈を広げることができている。非常にゆるやかな進捗ではあるが、今後とも作家のペースにあわせた調査を進めて行く予定である。 その一方、近年我々は、山口のご家族との間にも信頼関係を築き始めている。それによって山口に関する多くの資料の提示を受け、所在不明であった作品や様々な資料の所在が明確になりつつある。特に今年度有意義であった調査は、淡路島のアトリエ(淡路山勝工場)と大井のアトリエ(山口の自宅に隣接するアトリエ)の二カ所の内部調査で、いずれの調査もご家族の意向もあり、我々の研究に対するご理解とご厚意によって実現可能となった。二カ所のアトリエ調査によって判明した山口作品の保管場所や状態、作品資料の存在について、まずは視認しリスト化を行えたことは、今後の研究の新しい視点として、美術資料アーカイヴの分野に取りかかる導線を得たともいえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究方針は引き続き、「山口勝弘の現在進行形の活動」を直接的にサポートすることであり、そこから「芸術とテクノロジー」の関係性を再定義してゆくものである。特に「環境芸術」と「前衛的精神」は研究当初から重要なキーワードであり、山口との共同作業による作品制作、山口の現在の言動、山口の周辺資料の整理等、今まで実施した様々な調査からこの二つのキーワードの重要性が発見できている。 これまで我々との共同作業を通して確立した強固な信頼関係は、山口の現在進行形の創作活動にとっても、大きな役割を果たしていると自負したい。それは、山口が創作的自由を得ているということである。現在の山口は、たとえ身体が不自由であっても、その発想や構想の自由さは留まる事無く、そして我々はそれらを可能な限り実現化する環境作りを作り出し、山口が自由であることに寄与している。28年度も引き続き、この体制を密にしてゆくつもりである。 そして今までの調査で得ることができた新たな要素として、ご家族から提供頂いた山口勝弘の資料があり、おそらく殆どの研究者の目に触れてきていない資料であろう。その資料の一部から映像関連資料に着目し、これからその解析を行う予定である。映像関連資料のメディアは、VHSやU-matic、オープンリールやカセットテープ、CDやLP等であり、中には貴重な資料があるように見受けられるが、状態が良くないため再生可能か否かが不明である。しかしながら、メディアアートの偉大な先駆者として山口勝弘が美術史に残るには、当時のニューメディアであるビデオ資料に目を向け、そこから山口が「前衛的精神」を養ったというひとつの仮説をもとに、他資料とは異なる説得力が発見できると考えている。
|
Causes of Carryover |
前年度の繰越金が生じた理由として、調査対象がより明確化し、本研究の最終年に可能な限りの経費を準備しておきたいと考えた為である。27年度の調査中盤より、山口の膨大な資料の保存についてその必要性に気付き、また、ご家族から本研究に利用する事を条件とした、貴重な資料の一部提供があった事が経費用途の見直しの背景である。これらは、今まで育んできた人間関係によって生じた良好な外的要因であり、本研究課題にとって非常に有意義な流れである為、研究の方針もそれに定めることにした。これまで得てきた貴重な資料を、将来的に社会で活躍できる資料となり得るように準備を進めてゆきたい。 ただし、本研究当初から重点を置いている、山口の新作に要する予算は十分に確保することが重要である事には変わり無い。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在、手元にある資料のうち最も注目すべきは映像資料であり、山口勝弘がメディアアートの偉大な先駆者として美術史に残る現在、当初のニューメディアであるビデオ資料は他資料とは異なる説得力があると考えている。しかしながらこの度提供をうけたビデオ資料の規格は様々で、かつ、保管状態も良くなかったため、映像が再生可能か否かは不明である。その為、ビデオ資料のデジタル変換は外部委託が有効であり、予算の6~7割程度がそれにかかるかと想定している(U-maticからDVDビデオへの変換は30分税別5,700円から)。おそらく修復等も委託しつつ、本格的な映像の再現を試みるならば多額の費用がかかることは当然のことと考えている。 その他、山口を直接訪問する交通費、大井のアトリエや淡路のアトリエを調査訪問する交通費等は例年通り最優先で支出する予定である。引き続き、作品制作に関わる雑費も支出する。
|